一、私立花菱学園内の勢力図

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 なぜ、だろう。桐椰くんと会って以来急変した状況についていけない。ただ、この調子なら木之下くんの席を貰ったところで何も言われないだろう……。私の席を教室の一番後ろにやって、木之下くんの席をずるずると引き摺って私の席に移動させる。 「ところで、お前の名前、なんだっけ」  そういえば、桐椰くんの自己紹介を勝手に受けただけだから名前も何も言ってないんだっけ。席も確保してもらったわけだし、ついでにお礼も言っておこう。向き直ると、桐椰くんは、まるで最初から自分の席であったかのように不遜(ふそん)な態度で座っていた。 「……桜坂亜季。席、ありがとう」 「別に席はいいよ、ただのついでだし」  ついで……まあ、ついでか。この人には私を助ける義理も理由もないわけだし。  きっと、これ以上関わり合いになることもないだろう。そう判断して、テスト前の確認のためにノートを取り出し──ふと、思い出す。 『御三家だからって調子乗んなよ!』  赤木くんが口にした“御三家”って何だろう……。桐椰くんを指しているのは分かるけれど……桐椰くんの、なんだ? ただ、赤木くんを筆頭に、他のクラスメイトも生徒会役員も桐椰くんの言動に何の口出しもしなかった。私が生徒会役員に文句を言ったときとはまるで違う状況がカギではある……。  ただ、私には関係ない話だ。そう思考を打ち切って、テスト勉強に意識を戻した。  ──そして、下僕生活は始まる。  お昼前、中間試験を終え、筆記具を片付けていると、隣から椅子を蹴られた。何事かと胡乱(うろん)な目を向けると、こちらに向き直った桐椰くんが偉そうに腕を組んで座っていた。 「……なに?」 「ちょっと付き合えよ」  ヤンキーに付き合えと言われるなんてリンチのための呼び出しでしかないじゃないか。 「あ、わたくし用事がありますので、これにて失礼します」  すぐさま机の上のカバンを掴んだけれど、バンッと桐椰くんの手が机の上に振ってきて、カバンはそのままそこに縫い留められた。 「いいから来いよ」  コッワ! 助けを求めて辺りを見回すけれど、状況は朝と同じだ。被害者が私に変わっただけ。
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