一、私立花菱学園内の勢力図

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「もしかして告白? 私の好みのタイプは穏やかで優しい人なのでヤンキーは無理です、ゴメンナサイ」 「お前分かっててボケてんな? 言っとくけど俺のツッコミは痛いぞ」  “ツッコミ”と言いながら指の関節がバキバキバキッと音を立てている。ツッコミに名を借りた暴力を振るうつもりだ、なんてことだ。身の危険を感じて、きりっと表情を引き締める。 「ごめんなさい、全部冗談です、嘘です。なんでしょう。パシリでしょうか」 「あー、まあ近い」 「え? 今のもボケだったんだけど。え?」 「いいから来いよ。悪い話じゃねーから」  桐椰くんが立ち上がると、クラス中がまたピタリと静止する。桐椰くんが動くたびにクラス中が反応して、しかもご機嫌伺いのような空気を醸し出すなんて、桐椰くん、爆弾みたい。  そんな桐椰くんの後ろに付き従って教室を出るとき、一瞬、有希恵と目が合った。  蝶乃さんと仲良くしている有希恵と目が合ったのは久しぶりというわけではない。割と頻繁に目は合う。  ただ、目が合って、それで終わるだけだ。会話をすることなんてないし、次の瞬間にはサッと逸らされる。それは今日も変わらない。それだけで、有希恵との関係を考えるのにはうんざりした。 「……ねぇ、生徒会って、何であんなに偉そうなの」 「あぁ、それも知らねぇんだ? 寄付金出してる金持ちだってのもあるけど、生徒会長筆頭に、政界、財界に顔の利くヤツの息子だ娘だばっかなんだよ。特に、どっかのタイミングで理事長の子と副理事長の子が、それぞれ生徒会長と副会長なんてやってたからな。先生も口出ししない──というかできない、権力の塊ってわけだ」 「あぁー……さすが私立……」  花菱学園の生徒会至上主義は知っていたけれど、ようやく繋がった。学校理事の関係者までいるとなれば我が身可愛い教諭陣が生徒会の所業に目を瞑るのも納得はいく。寄付金だって少なくなるとここまで綺麗な校舎は維持できないだろう。  そんな金の臭いのする学校だけれど、私の家は寄付金なんて一銭たりとも出していないし、今後も出す予定はない。だから生徒会に見下され続けるしかないのだ。  とはいえ、今後の高校生活も今までと同じと決まったわけではない。本日最大の疑問を口にする。 「じゃあ、御三家は?」 「あぁ、俺と(そう)駿哉(しゅんや)のことだよ」  個人名だけじゃ何も分からない。なんなら御三家って言ってるんだから三人ってことくらい分かる。
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