一、私立花菱学園内の勢力図

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「そうじゃなくて……生徒会が権力握ってるから、逆らえば私みたいに虐められるはずなのに。桐椰くんはむしろ生徒会役員にも怖がられてるじゃん」 「まあ」 「御三家っていうのが関係あるんでしょ? 何で?」 「それを今から話してやる」  桐椰くんがどんどん歩いて行くと、人がサッと避けて道を作っていく。そして、進むにつれて人気(ひとけ)が少なくなっていく。転入して僅か一ヶ月なんて事情は関係なしにあまり通ったことのないところを歩いている。 「どこまで行くの?」 「裏校舎」 「リンチ?」 「ツッコミ、入れていいか?」 「勘弁してください」  そのまま桐椰くんとどんどん歩いて、ようやくたどり着いたのは、普段全く使わない、敷地内の隅っこにある校舎だった。  桐椰くんはその校舎の鍵を開け「早く来いよ」と促す。足を踏み入れると内側からまた鍵をかけている。悠々と歩く桐椰くんの後ろについていきながら、嫌な予感に襲われた。  学校案内パンフレットにも記載はなかったし、日当たりは悪いし電気もついていなくて暗い。使われている気配もなく、端的に言って不気味だ。この校舎、もしかしなくても閉鎖されているのでは……。 「……なにここ、なんか暗くてヤダ」 「涼しくていいだろ」 「しかも廊下と教室の左右逆だし……」 「設計ミスだっけな、詳しいことは知らねー。放置されてんだからいいだろ」  そう、普段の校舎とは廊下と教室の位置が逆だからその意味での違和感もある。ちなみに放置されてることの何がいいのかはさっぱり分からない。  そんな校舎の一番奥の教室に、明かりがついていた。カラカラと音を立てて扉を開け「ああ、やっぱ総か。早いな」中にいる誰かに話しかけている。なんなら“ソウ”というのは先程桐椰くんが口にした御三家の一人だ。 「おつ。テスト怠いな、全然できないし」  快活な声は欠片も気に病んでいる様子はない。そのせいか、桐椰くんの返事も「んなこと言って、どうせ適当にできてんだろ」呆れ混じりだ。 「まあ、いつもどおり適当にね。……で、そこにいるのは?」  暫くは外から様子を伺っていようとしたけど、バレた。恐る恐る顔を覗かせると、桐椰くんがこちらを見ていて、ついでに庭側の窓際に誰かが凭れるように立っているのが見えた。
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