一、私立花菱学園内の勢力図

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 逆光で、表情はおろか、顔すらよく見えない。とりあえず教室内に入ると、普通の教室よりも少し間取りが広く、なにやら使い勝手の良いように改造されてた。  入ってすぐの左手にはテレビにサイドテーブルにソファ。奥にはベッドがあって、保健室のようにカーテンの仕切りがあり、その隣には三段の衣装ケースまであった。教室後ろの壁には本棚が埋め込まれていて、教科書らしき本のほかにも、分厚いドッジファイルがいくつか並んでいる。  教室の前方には冷蔵庫に電子レンジ。小さい食器棚まであって、その上にコーヒーメーカーが置いてある。そして空いたスペースには、机と椅子とノートパソコン……。  やたらと生活感の溢れる教室──というか、部屋だった。お陰で、一瞥で済ませるつもりだったのにじろじろと眺め回してしまった。 「その子が例の? 何で連れてきたわけ?」 「コイツ、この間転校してきたんだって」  ニヤッなんて擬態語でも聞こえてきそうな表情で、桐椰くんが私を親指で示した。 「まだ染まってないだろ?」 「まあ、一ヶ月くらいならそうかな? 俺としては現時点でも異論はないけど、一応駿哉(しゅんや)に確認して……っと」  その人はゆっくりと私に歩み寄って来た。陽光に反射して金髪に見えた髪は、綺麗な明るい茶色い髪だった。きれいな猫っ毛で、ちょっとだけくしゃりと跳ねている、そんな無造作なのにきれいに整って見えた。スラリと背が高く感じるけど、多分一七〇センチそこそこ。でも、一五五センチの私からすれば見上げるほどには十分背が高い。少し日焼けしたように健康的な小麦色の肌、人懐こそうな笑みを浮かべる奥二重の目、少し鉤鼻、と諸々のパーツも美しく整っていた。極め付けはうっすらと弧を描く唇。自分の顔の美しさを分かったうえで、嫌味のない余裕の笑みを浮かべているのだろう。
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