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「どうも、松隆財閥の御曹司です」
「……はっ?」
松隆財閥……。名字を言われたときはピンと来なかったけど、財閥と付けられて、頬が引きつった。ヤバい、日本一とは言わずとも、上から数えて五本の指には入るほど大きい、正真正銘の財閥だ。当然のように金融もインフラも百貨店も抱えている。なんなら、私の父親が務める会社だって松隆グループ系列会社だ。
「そ、その御曹司……?」
「そ。まあ、兄貴いるから御曹司って言うと変かもしれないけど」
そうか、御曹司っていうと普通は跡取りだから長男、総二郎という名前からすればきっとこの松隆くんは次男……。って、そうじゃない。
「……つまり、自分も金持ちだから平気ってこと?」
「まあ、簡単に言うとそうかな」
「くだらない……。成金のいがみ合いじゃん」
今時“御三家”なんていうからさぞかし高尚な人たちだと思えば、と呆れ混じりに付け加えた。二人ともそれに対しては何も答えず、ただ松隆くんだけが怪しく目を細めた。
「言っとくけど、私、別に全然お金持ちじゃないよ。普通の家だから。庶民だから。御三家様たちと同じ場所になんていれないから」
「同じ場所に来いなんて誰も言ってないよ」
「じゃあ何で私を連れてきたの?」
ねえ桐椰くん、とソファで寛いでいる桐椰くんに声をかける。試すような目が私を見た。
「お前、男女の差って何か分かる?」
「性別」
「お前マジで一発ツッコミ入れてほしいらしいな」
途端に鬼人のような表情に変わって立ち上がり、バキボキと拳を鳴らされた。あぁ怖い。
「冗談だってば。差、ってそんな漠然とした聞き方されても分からないけど……」
「じゃあ質問を変えてやるよ。お前、男子更衣室に女子がいたらどう思う」
ふざけているのかと思ったけれど、桐椰くんも松隆くんも至極真面目な表情をしていた。
「……間違えて入ったとかじゃないの?」
「じゃ、男子が女子更衣室に入ってたら?」
「変態か下着泥棒だと思う」
「それが差だよ」
自分で出した答えに、口を噤んだ。
桐椰くんは満足げに頷き、松隆くんは困ったように溜息を吐いた。
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