一、私立花菱学園内の勢力図

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 ……そんな仕組み、有希恵は教えてくれなかったけどな。思わず表情が曇ってしまう。  ていうか、この流れで行くと、私が蝶乃さんに呼び出される理由って、無名役員への勧誘なんじゃ……。イヤな予感がしてきた。虐めをやめるから生徒会の下僕になりなさい、ってこと……? 「生徒会室はここねー」  本校舎三階の東側。生徒会室と書かれたプレートを指差して、稲森さんは立ち止まった。 「じゃああたしはこれでー」 「あ、うん、ありがとう」 「無名役員になったらよろしくね」  稲森さんは無邪気に手を振ったけど、要は「下僕としてよろしく」だ。冗談じゃない。  ああでも、私の処遇は私の手になく、蝶乃さんの手の中なのだ。憂鬱(ゆううつ)な気持ちになりながら生徒会室の扉をノックした。 「どうぞ」 「……失礼します」  甘ったるい蝶乃さんの声に許可されて入れば、中はやっぱり、豪華絢爛。絨毯(じゅうたん)にシャンデリア、ユニットデスクにレザーチェア。更には冷蔵庫にミニキッチンと優雅に過ごせる調度品が(そろ)っていた。御三家のアジトはあろうことか設計ミスで北向きだし、校内の隅の隅だし、室内は“改造”したというのが似合っていたけれど、生徒会室(ここ)は違う。もちろん南向きだし、学校の玄関たる本校舎の中にあるし、最初から生徒会室として作られた場所だ。お金の臭いがする。  なんていやらしいことを考えていると、ミニキッチンにいる蝶乃さんが「桜坂さんを応接室に通して」と誰かに指示を出した。 「は、はい」  返事をしたのは、有希恵だ。人選に他意しか感じない。  ただ、有希恵は、私なんて知り合いじゃないかのように、よそよそしく「どうぞ」と案内するだけだ。応接室のソファに座った後、扉の脇に待機する有希恵をじっと見つめるけど無視。  本当に、私達の関係はすっかり他人に成り下がったようだ。 「ごめんね、お待たせ」  蝶乃さんはティーポットとティーカップを載せた銀色のトレイを持って入ってきた。よく見ると某デンマークの陶磁器メーカーのものだった。二人分のティーカップとティーポットで数万円はするんじゃないかと震える。
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