一、私立花菱学園内の勢力図

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「大体、一番腹が立つのが桐椰くんなんだけど。彼、この私が最初に指定役員に誘ったっていうのに、何も知らないくせに、頭の足りないヤツの下に就く気はないとか言いやがったの。は? 私の何が頭が足りないっていうの。頭が足りないのは何でもかんでも暴力に持ち込む桐椰くんのほうなのに」 「はぁ……ご愁傷様です」  もしかして桐椰くんと蝶乃さん、仲悪いのかな。蝶乃さんはぐびっと豪快にセイロンティーを飲んだ。 「まあ、そんな話は置いといて……桜坂さん、もう一度聞くけど」  あ、執行猶予期間終了のお知らせだ。私の背筋が伸びた。 「指定役員、引き受ける?」  どうしよう。御三家と生徒会、どっちを選ぶのが正しいだろう。さっきから同じ条件が頭の中でぐるぐる回ってる。  蝶乃さんに絶対服従したくないし、断った方がいいかもしれない。でも、特典があまりにもおいしすぎる。御三家はしょせん学園内で有名なだけで、この学園の外に出れば何の役にも立たない盾。でも花菱学園生徒会役員は看板として対外的にも意味を持つ。 「……指定役員──」  引き受けます──と言おうとしたところで、「おい待てよ!」という男子の叫び声が聞こえた。蝶乃さんと私と有希恵が、声のした方──生徒会室を振り向く。有希恵は真っ先に扉から顔を生徒会室に向かって覗かせて……、「ひっ」と声を上げて飛びのいた。ついで、ぬっと現れたのは、ものすごく見覚えのある金髪ピアスの男子生徒。不機嫌そうに歪んでいたその唇が開いた。 「お前なにやってんの?」 「え? えーっと、お茶?」  桐椰くんに向かって紅茶のカップを掲げて見せる。案の定、桐椰くんの頬はぴくりとひきつった。 「なるほど? いい加減俺からのツッコミ待ちってことだな?」 「ち、違う! 違います!」 「ちょっと桐椰くん、生徒会室には生徒会役員以外の立ち入りを禁じてるんだけど。勝手に入ってくるなんてどういうこと?」  すっかり無視されている蝶乃さんが立ち上がるけれど、桐椰くんは「うっせーな。俺達は生徒会規則に断じて従わないって言ってんだろ」といつもどおり一蹴(いっしゅう)すると私に顔を向けた。
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