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「ちょ、ちょっと下ろしてよ」
「生徒会役員なんてなってもらっちゃ困るからな、逃げられないようにこのまま連れて行く」
「逃げないから下ろしてよ!」
「おい蝶乃」
私の文句を無視して、桐椰くんは蝶乃さんを振り返った。顔を上げると、蝶乃さんがわざわざ応接室から出てきてお見送りをしてくれていた。
「コイツは俺達御三家のもんだからな。手出した役員は容赦しねぇって伝えとけ」
「……ふぅん。桜坂さん、それでいいの?」
「あ、うーん、まあ、いいです」
「そう」
後悔するわよ、と小さく付け加えられたけど、どうせもう私に決定権はない。桐椰くんに抱えられ、ゆらゆらと揺れたまま生徒会室を後にした。
生徒会室を出ても、桐椰くんは下ろしてくれる気配がなかった。いい加減、頭に血が上りすぎて破裂しそうだ。
「あのー、そろそろ下ろしてほしいのですけど」
「お前、何で生徒会室に行った? 俺達の誘いを無視してまで」
「だから、あのメモの意味が分からなかったんだってば! 第六西ってなに!」
「裏校舎、旧第六校舎だろ。んで、その西側。分かるじゃねぇか」
「旧第六校舎なんて名前知らないし!」
「あー、そっか、学校案内で読んだら知らねぇか」
じゃあ今覚えろよ、と。なんて横暴な。
「ところで桐椰くん、話は変わりますけど」
「なんだよ」
「駿哉くんが怒ってるって、何で?」
私にはさっぱり心当たりがないのですが? そう付け加えると、桐椰くんもないらしく一緒になって首を傾げた。
「さぁ……有り得ないとか腹立たしいとか、そんなこと言ってたけどな」
「『有り得ない』?」
「つか、お前関係あんのかなぁ。イライラしてると思ったら『その桜坂さんとやらを連れてこい』って急に言い出したんだよな」
「……その流れだと私が関係あるんじゃ」
「あるとは思うけど、なんだろうな。で、お前、駿哉がいいって言ったら俺らにつくんだよな?」
急に体が宙に浮いたかと思うと、ストン、と地面におろされた。第六校舎の入口だ。桐椰くんを見上げると、鍵を取り出して私を睨むように見下ろしてくる。
「さっき生徒会役員に誘われてたろ。好待遇理由に生徒会に入るなら見込み違いだ。俺達はお前を守らない」
図星をつかれた。確かに、生徒会役員になったほうが御三家に守られるよりいいことが沢山ある。それにうっかり絆されそうになってたのは嘘じゃない。でも、あの蝶乃さんに絶対服従っていうのは……。
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