一、私立花菱学園内の勢力図

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「へーえ、それはそれは。失礼な話ね」 「でも本当のことじゃん! あなた達が有希恵にぶつかってきたから――」  第三者が出て来たところで公平に判断してもらおうと憤慨した私だったけれど。 「ちょっと、生徒会役員を侮辱する気?」  本日二度目、他人の言葉に我が耳を疑った。そんな私に、蝶乃さんは高飛車に笑いながら吐き捨てる。 「生徒会役員を侮辱する生徒なんて、この学校に要らない生徒よね」  そうして私は、生徒会役員を筆頭として、謎の嫌がらせを受ける羽目になった。  下駄箱を開く。ゴミが入っているので雪崩出る。  教室に入る。私の机がない。運が良いと廊下にある。  ロッカーを見る。教科書はない。代わりにゴミ箱の中に全部揃っている。  体育の授業がある。バスケが始まると身体をボールが強打。頭に当たると十点らしい。  雨が降る。水溜まりの前で決まって派手に転倒する。  ちなみに先生は何も言わない。当然、有希恵もだ。今まではいつも私と喋っていたのに、いつの間にか蝶乃さんの取り巻きの一人になっている。  高校二年生四月、一体全体何が起こっているのか、さっぱり分からない。  更に、ある日の放課後、急にクラスメイトの女子に囲まれて無理矢理教室から連れ出されたかと思ったら、中庭でホースを向けられ、派手に水を掛けられた。頭から爪先までぐっしょりだ。  そんな私の前に現れたのは、やっぱり蝶乃さんだ。その日もその日とて、蝶乃さんは長い髪を嫌味ったらしくふわりと払ってポーズをとる。 「生徒会を侮辱するような生徒は要らないって言ってるでしょ? ね、梅宮さん」  弾けるように、蝶乃さんが呼んだ相手を見た。今この場に有希恵がいることに、一体何の意味があるのか。察するより先に、蝶乃さんが有希恵にホースを手渡した。 「ごめん、亜季ちゃん」  まさか、なんて息を呑む間もなく、まるで水中に飛び込んだかのように私の全身はずぶ濡れになった。ただ、何よりも愕然としたのは、その行為に及んだのが、つい数週間前までは私と仲良くしていた友達だったことだ。  蝶乃さんを皮切りに、女子特有の甲高い笑い声が響き渡った。 「これに懲りたら学校来るのやめなよ!」 「生徒会に逆らった時点で味方なんていないんだからさぁ」 「ま、いい玩具(オモチャ)だから暇潰しにはなるんだけどねぇ」  有希恵は、蛇口を捻って水を止めて、ホースを片付けておけとでもいうように、私に向かって放り投げた。蝶乃さんが踵を返すと、他の女子と同じく、有希恵は立ち去った。
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