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そして何より疑問なのは、誰も“透冶”くんの名前を口にしないこと。そして──今朝の違和感の一部が形になった──透冶くんがいたにも関わらず、彼らは“御三家”と呼ばれていること。
「あの……、御三家って、いつから呼ばれてるの? 最初から?」
「一月か、二月くらいじゃないかなあ、結構最近だよね」
誰が呼び始めたんだろう、とでもいいたげに檜山さんが首を傾げた。
「一番最初は、生徒会役員もちょっと手が出しにくい男子たちってくらいだったんだよねー。ほら、松隆くんが松隆財閥の次男じゃん?」
「いやまあ、イケメンだったけどね、最初っから。月影くんは代表挨拶、松隆くんは財閥御曹司、桐椰くんは金髪で、ほら、色々目立つ三人だったし」
やはり透冶くんの名前は上がらない。それどころか、舞浜さんは明確に「三人」と述べた。
「御三家って、ずっと三人で仲良しなの? 四、五人のグループだったりしないの?」
「そういえば四人目がいたような気も……」大橋さんが首を捻るけれど、檜山さんは「えー、ずっと三人じゃないっけ」なんて有様で、舞浜さんが「いや、もう一人仲良さそうなのいたよ」と辛うじて把握している程度だ。
「あー、そういえばそんな人いたね。思い出した」
「もしかして転校してった人?」
「そうそう」
……御三家のいうとおり、透冶くんは転校したことにされているらしい。また、少し背筋が震えた。
「あれさー、正直いじめで転校したんじゃないかって思うよねー」
邪推するような舞浜さんの声音と表情に、ドキリと心臓がはねた。
「……というと?」
「だって、御三家が暴れ出したのって、確かその四人目が転校した後だよ? 桐椰くんは片っ端から生徒会役員しめてたし」言いながら、舞浜さんは数えるように指を折り「月影くんが女遊びしてたのもその頃だし。あと脅されたって言ってた子もいたかな、あの松隆くんがそんなことするわけないのにね」
やはり私が知っている松隆くんで間違いない。あの王子顔と紳士的な態度でみんなを騙しているのだ。裏で何をやっているか、聞けば聞くほど恐ろしいのであまり聞かないことにしよう。
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