二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

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――(一)契約相手は、他者からも明確でなければならない――  以来、学校へ行くと舞浜さん達が仲良くしてくれるようになった。舞浜さん達以外にも、不自然に親切にしてくれる人が現れた。ついこの間まで一人ぼっちを決め込んでいた私は、今やお昼ご飯はもちろん移動教室から休み時間まで一人にしてもらえない有様で……あまりにも分かりやすい周囲の態度には、四月とは別の意味で嫌気が差す。  その環境は、酷く居心地が悪い。誰もが私を必要としてるんだと言えば聞こえはいいし、きっと気持ちもいい。ただそこに、〝御三家の恩恵にあやかるために〟とつくだけで、酷く不快だし、(みじ)めだ。必要なものが、”私”から”私が持つステータス”へと様変わりする。大体の人がそうだとは思うけれど、ステータスだけを見られるのは、嫌いだ。  生物の移動教室の間、頻りと一緒に行こうと誘ってくる舞浜さん達に、断りきれずも、途中で忘れ物をしたと言って教室に戻った。教室に戻ると、桐椰くん以外誰もいなかったから、ホッとして桐椰くんに駆け寄った。 「桐椰くんー、助けてよー」 「何が? お前虐められてなくね?」 「虐められてはないけどさー」  自分の椅子に後ろ向きに座って、桐椰くんの机に突っ伏した。桐椰くんはしらじらしく答えたけど、どうせ分かってる。 「気持ち悪いっていうか……」 「正直に言えよ、都合良くて不愉快だって」 「……でも虐められるのもイヤなんだよね」 「虐められたら俺達がどうにかしてやるよ」 「……それって、舞浜さん達のことも守ってくれるの?」  小さく呟いて──ハッと顔を上げた。桐椰くんは無表情だった。ただ、すぐに蔑むように笑った。私が何を言いたいか、何て答えてほしいか、分かってる。分かっててそんな笑顔を浮かべてる。 「まぁ、桐椰くんと一緒にいるだけで全然生徒会の人に絡まれなくなったから、そういう心配要らないんだけどね」  だから慌てて付け加えた。桐椰くんはその笑顔を引っ込めて「さぁな」と短く答えた。 「あくまで今までだって手を出してたのは一般生徒だろ。筆頭が生徒会だっただけで。筆頭の生徒会は文化祭の準備のほうが大事だから静かなだけ。一般生徒は様子見」 「……冷静な分析ありがとうございます」  はぁ、と溜息。いいな、生徒会と対等以上の立場の御三家は。 「……文化祭っていつ?」 「六月中旬。明日には連絡回るんじゃね?」 「文化祭も生徒会が仕切るの?」 「まぁな。だからそこもぶち壊す」  私としては初の文化祭を楽しみたい気持ちもあるんだけど。それに、生徒会に反抗するのはあくまで建前って言ってた気がするんだけどな。
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