二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

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 ──そんな下僕な私に、事件は起きた。  現在使用中の校舎の中で最北端・特別校舎から、南に向かって二つ隣の第二校舎まで戻るとき、丁度体育館から出てきた生徒と遭遇する地点がある。その地点というのが、第二校舎下駄箱付近。  各校舎を繋ぐ渡り廊下は複数あるのだけど、一階最東端にある生物室から第二校舎に戻ろうとすれば東渡廊下を通るのが早いし、通行止めでも起きない限り必ず通る。そして、各校舎の下駄箱は一階最東端にあるから、東渡廊下を通って第二校舎に戻ると、体育終わりの生徒と下駄箱でばったり鉢合わせる、という寸法だ。 「もしかして、桜坂さん?」  その道中、不意に呼び止められた。相手は三年女子(リボンが赤色なので分かる)だ。 「……桜坂、ですけど。なんでしょう……」  きっと相手も授業終わりで、四、五人の友達がその周りに立っている。声をかけてきた三年生の顔に見覚えはない。黒髪のショートボブで、細くて鋭い目が印象的だった。 「歌鈴(かりん)の誘い、なんで断ったの?」  カリン? 私の頭の中には疑問符が浮かぶ。誰、それ。  ただ、私を何かに誘った人は御三家を除けば蝶乃さんしかいないので、蝶乃さんの名前だろう。きっとそうだ、と合点が行くと同時に嫌な予感がしてきた。ブラウス姿で生徒会役員の徽章はつけてないけれど、絶対、この人も生徒会役員だ。  桐椰くんは授業が終わると同時に帰ってしまったのでもうここは通らない。御三家に連絡しようにもスマホはカバンの中だ。最悪だ。これからは肌身離さず持ち歩くことを決めた。  緊張で生唾(なまつば)を飲み込んだ私の背後で、舞浜さん達が訝しげに三年生を観察している気配がする。きっと、ここで立ち去られないのは、御三家のおかげなんだろう。 「すいません、この子に何か用ですか?」  舞浜さんが、私の隣に出てきてくれたのも。  その反応に、相手の三年女子がますます眉間のしわを深くした。
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