二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

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「何か用って。この桜坂さん、現副会長の誘いを断って、挙句御三家と一緒に生徒会室から会議資料を盗んだんだけど?」  あ、盗んだってバレてる。顔をひきつらせた私の隣で、舞浜さんが「なんですかそれ、どうせでたらめなこと言ってるんですよね?」喧嘩を売る。 「でたらめなんか言うわけないでしょ」 「どうせ、そういうこと言う人に限って何も見てないんですよ」 「何人もの生徒会役員が見たんだけどね?」自分で見ていないのは本当らしく、その人の声の苛立ちが増して「っていうか、今は桜坂さんに話しかけてるんだけど?」 「友達がいちゃもんつけられてんですよ? (かば)うのなんて当たり前じゃないですか」  その時の舞浜さんの表情に、思わず自分の表情が歪んでしまうのが分かった。  生徒会役員を睨み付ける目に映ったのは生徒会への敵愾心(てきがいしん)。そして何より──、生徒会に反抗できる自分の立場への優越感。私を手に入れたから、御三家の仲間になったも同然だと。  “友達なんだから”と、私との関係を告げたその表情が、私と全く関係のないことばかりなんて、なんていう(いびつ)さなんだろう。  その(いびつ)さは、あまりにも不愉快だった。 「……あんた、私が企画役員だって分かっててそういう態度とってんの?」  企画役員ということは正役員か。正役員の名前は御三家から聞いている、きっとこの人は笛吹(うすい)さんだ。  なるほどなるほどと呑気(のんき)に顔を覚えようとする私とは絶妙な温度差で、舞浜さんは勝ち誇ったように、それどころか小馬鹿にした態度で笑い飛ばした。 「分かってますけど? 生徒会役員って、本当にそうやって自分が一番偉いみたいな顔してますよね。そういう先輩こそ、分かってるんですか? 生徒会なんてただの成金集団なんですから、従う理由なんてないですよ」  まるで、舞浜さんが主役で、私は脇役どころか観客のような立ち位置だ。舞浜さんが笛吹さんに喧嘩を売る姿を、ただ眺めているだけ。  この舞浜さんを、御三家は助けてくれるのだろうか。……助けてくれなければいいのに。  笛吹さんは「は?」と露骨に不愉快そうな声を出した。その目は私と舞浜さんを交互に睨み付ける。
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