二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

8/62
前へ
/241ページ
次へ
「いつものことだけど、俺らにだって都合はあるんだよね。急にあれしろこれしろって言われても困るっていうか」 「だったら、このまま返してください」 「無理無理、俺らだって証拠送んないと出れないし。んじゃ、そこのポニテのやつ」一人が大橋さんを指差し、檜山さんを示して「そこのロープで、短い髪のヤツ縛って」 「……へ……?」 「腕縛ってくれたら縛り方はどーでもいいよ。あ、足は縛んないで。んで、髪がくるくるしたお前は、よく喋る眼鏡のヤツね」  舞浜さんは私の担当、と。呆然とした舞浜さん達は「え?」「なに?」しか言わないので、男子三人が「あー、めんどくせえなあ」とぼやきながら私達に近寄る。 「いいから、ほら、これ持って。腕縛ればそれでいいよ、もう」 「え……、と、だから、なんでこんな……?」 「いいからやれって」  大橋さんは怯えたまま、震える手で檜山さんの腕を手に取る。舞浜さんも、その様子を見ながら私に手を伸ばそうとする。  その手を振り払うと、パタリと、ロープは死んだ蛇のように床に落ちた。舞浜さんが「ちょっと!」と小声で(とが)め、驚いた檜山さん達も私を見る。でも、この三人がどうなろうと、私の知ったことじゃない。  中心人物っぽい男子は私達のところへやってきて「ったく、仕方ねーな」と言いながらロープを拾い上げる。私は再び、一歩後ずさった。 「……あのさあ、早く帰りたいって言ってんじゃん、お互い。大人しくしてくんない?」 「じゃあ、なんで笛吹さんの言うことを聞いてるんですか?」 「お前には分かんねーのかもしれないけど、これが俺らなりの処世術(しょせいじゅつ)だよ」 「ああ、なるほど」挑発するように笑ってみせて「笛吹さんの無名役員なんですかね? 役員とは名ばかりの絶対服従の下僕、お疲れ様です」 「……ああ、そうだよ?」  リボンごと胸座を掴みあげられて、息が詰まった。あまりに乱暴に掴まれたせいで、眼鏡が落ちて床に転がり、隣の舞浜さんが息を呑む。 「俺らは無名役員だから、アイツに絶対服従なわけ。何か文句あんの? アンタだって御三家のセフレにならなきゃ守ってもらえないんだ、同じだろ?」 「そんなんじゃないし……」 「いいじゃん、それで守ってもらえるなら安いもんだろ? お姫様気取りかなんだか知らねーけどさ」 「お姫様じゃなくて、私もただの下僕だよ……」  首を絞めるように、手に力を込められた。ぐっ、と更に息が詰まる。抵抗するように腕を掴んでも、引き()がすことなんて到底できなかった。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加