7人が本棚に入れています
本棚に追加
「それ、誰にやられた?」
呆然としていたせいで、声が出なかった。おずおずと、檜山さんの近くにいる男子を指さす。何かされると思ったのか、その男子は言い訳をするように「いや、それは……」と両手を振りながら後ずさる。
「その女がヒロのこと蹴るから仕方なく……ほら、暴れたら聞こえるし……」
「それ、理由になると思ってんの?」
冷ややかな声で切り捨てると、松隆くんは彼の胸倉を掴み、そのまま机に向かって投げるように引き倒した。彼の体は二、三個の机と椅子に体当たりし、ガタガタッ、ガンッと大きくて鈍い音を立てた。
教室内の空気は、一変していた。男子三人のうち、二人は患部を押さえて呻いている。残る一人は教室の隅っこに避難し、すっかり怯える側に。舞浜さん達は心底ほっとしたような表情になっていて、檜山さんなんて半泣きだった。
松隆くんは、ゆっくりと教室を見回して様子を確認した後、「ヒロ」に向き直った。
「お前ら、桜坂を狙ったな?」
「ああ、そうだよ……桜坂の名前は役員内のブラックリストに載ってるし、笛吹にも言われたし……」
「そう。じゃあ、笛吹と生徒会役員どもに伝えとけ」
「っ」
起き上がりかけてた「ヒロ」の腕を足で払いもう一度転ばせ、床に這いつくばった彼の体の下に爪先を入れて、仰向けにする。触れる価値さえないと言いたげな動作。まるで物のような扱いに、背筋が震えた。
そのまま、松隆くんは「ヒロ」の胸元を踏みつける。息の詰まった彼が呻き声をあげるけれど、そんな醜い声は聞こえないとばかりに、松隆くんは無表情で、平淡な声で告げた。
「桜坂に手を出すのは、御三家に手を出すのと同じだと思え。手を出せば俺達がお前をこの学校から排除してやる。どんな手を使ってでも、だ」
ギリッと、松隆くんの足に一層力が籠り、踏みつけられている「ヒロ」は口を虚しく開閉させた。
「分かったら二度と手を出すな、触れるな。俺達は相手が女子でも容赦しないからな。男ならなおさら、分かるよな?」
「ヒロ」の手が、抵抗するように松隆くんの足首を掴んだけれど、松隆くんは非情にその手を振り払う。振り払われる一瞬だけ解放され反射的に大きく息を吸った彼の胸は、もう一度踏みつけられた。
最初のコメントを投稿しよう!