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「あの月影くんの性格なら、どこに連行されたか分からなくならないように、ちゃんと私達の後をつけてくれると思う。ってことは、私達が閉じ込められてる場所を探すのに手間取ることはない。だったら、松隆くんが駆けつけてくれるのは六限目が始まってすぐだったんじゃないかな」
それなのに、松隆くんが文理教室に現れた時には、六限目が始まって二十分近くが経過していた。謎のタイムラグがある。
このタイムラグは、なんなのか。
「そもそも、文理教室に連れていかれる前に松隆くんが気付いてた可能性も、あるよね?」
あの文理教室がある第三校舎は、二年生の教室がある第二校舎と、生徒会室等がある本校舎との間。文理教室にはカーテンが引かれていたから、本校舎からは見えない。廊下側の窓はすりガラスだから、やはり第二校舎からも見えない。
つまり、松隆くんが私達を目撃できたとしたら、それは、笛吹さんと鉢合わせてしまった場所から文理教室に来るまでの間しかない。その場合、私達が文理教室に閉じ込められる前に止めることだってできたはずだ。
どう考えても、松隆くんが何かを待っていたとしか思えなかった。
沈黙が落ちた。じっと見つめる先の松隆くんはいつもの微笑を浮かべたまま、静かに口を開く。
「正解」
それは、確信していたとおりの答えだった。
「最初に謝っておくよ。襲われる直前まで、廊下で桜坂と相手の遣り取りを聞いてたことはね」
やっぱり、もっと前から文理教室の前まで来てたんだ。
「俺、七組だからね。教室から、第三校舎の三階廊下が見えるんだよ」
つまり、松隆くんは、文理教室に向かう私達を見ていた。
「桜坂一人だけならすぐに助けようと思ったけど、取り巻きが見えたからね。特に、遼から、最近桜坂の周りにいるハイエナの話は聞いてたから。ここできちんと掃除をするのもいいかと思って利用させてもらった」
利用とまでいわれたのに、詰ることも、否定することさえもできなかった。だって、御三家の目的は透冶くんの死の真相であって、私を守ることじゃない。あくまで私はついでだ。
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