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「透冶のことを知りたいだけなのに……意外と面倒が多いな」
「……その、実際進展はあるの? そうじゃなくても当てとか……」
「今のところ、会議資料に不自然な点はない。会計収支は合ってるし、前年度までと比べて極端な変動もない。となると、あと残ってるのは生徒会役員の寄付金の使途だね」
「寄付金のことも会計資料に書いてあるんじゃないの?」
「寄付金は額が大きいから、毎月の細かい予算にはそんなに使われないんだ」
つまり、どこか使われる場面が決まっている? 表情に出てしまったのか、松隆くんはクスッと笑った。
「来月の学校行事、なにか分かる?」
「学校行事……」
そういえば、六月は花菱学園の──。
「文化祭だ」
松隆くんの口の端からは怪しい笑みが零れる。
「なにせ祭りだからね、公立高校とは比べものにならない予算が各クラス、各部に配分される。去年の文化祭段階では透冶は生徒会役員じゃなかったから、その意味では結局無関係かもしれない。でも会計が動く最大のイベントといえばこれだ」
立ち上がった松隆くんは、教室の後ろにある本棚から二冊のドッジファイルを持ってくる。ドンッと音を立ててセンターテーブルに置かれたファイルのうち、一冊の中身は、去年の文化祭のパンフレットから始まっていた。花弁が散りばめられたカラー表紙の左には縦書きで“つぼみ”、右端には横書きで“花菱学園文化祭”とある。
「“つぼみ”って何?」
「去年の文化祭のテーマだよ。今年のテーマももう決まってるよ、まだ見てなかったけど……」
もう一冊のファイルの中には、資料が一部挟まっているだけ。私が持ってきたに違いない会議資料(その証拠に、大事にしまわれていたにも関わらずしわくちゃだった)なので、このファイルは今年度用なのだろう。
「今年のテーマは……と……」
松隆くんは頁を捲り――僅かに目を見開き、その口角を吊り上げた。
「……なるほどね。生徒会のヤツらは分かってるんだな」
パンッと手の甲が会議資料を叩く。それを覗き込めば答えが分かるのかとおもったけれど──書かれていたのは、たった四文字。
「……“こいこい”……?」
それは、花札のゲームだ。
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