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「面白いね。ここまであからさまに、堂々と喧嘩を売られるとは思わなかったよ」
「どういうこと? 花札と御三家に一体何の関係が……」
「俺達の名前を思い出しなよ」
「……松隆総二郎、桐椰遼、月影駿哉」
「生徒会正役員の名前は?」
「……鹿島明貴人、蝶乃歌鈴……」
「会計には猪股ってヤツが就いてる。ちなみに猪股の父親は鹿島の父親の部下だけど、それは今はおいておくとして」
何か分からない? その目はオモチャを見つけたように煌めいた。
松隆、桐椰、月影……。そして鹿島、蝶乃、猪股……。
「あ……」
声を上げると同時に、思わず口元を手で覆ってしまった。松隆くんは「そう……」と正解を教えてくれる。
「苗字に花札の絵札が入ってる。俺達は松・桐・月の三光。そして生徒会は、猪鹿蝶。ここまでならただの偶然だけど、御三家と生徒会が敵対している中で、よりによって花札のゲームを文化祭のテーマに据えて、関係がないなんてことはないだろう?」
つまり、生徒会は御三家の存在を意識している。このテーマはその暗喩だ。
「それどころか、透冶の名字は雨柳──俺達と併せれば“雨四光”だ。このテーマを設定しながら、透冶の件を、そして俺達を意識してないなんてまさか言わないだろう」
その瞳が昏く光った。そんな表情を見るのは二回目で、心臓が鷲掴みにされたような恐怖を、一瞬感じた。
「このテーマが決まったのは四月で、透冶は既にいなかった。つまりテーマの趣旨はこうだ、生徒会と御三家は、それぞれ花札の役に置き換えることができる。そして生徒会側には無名役員がいる、その名の通りカスとしてカウントできそうな連中がね。これを合わせて考えると、『三光に過ぎない御三家よりも、猪鹿蝶のある生徒会が上だ』と暗に言っていると読むことができるわけだ」
きっとそれは、全校生徒へのメッセージにもなっているのだろう。御三家という反乱分子はいるけれど、所詮生徒会の敵ではない、と――。
「が、このテーマが決まったのは四月。当時とは違って、俺達には桜坂がいる」
「……私?」
「桜坂の苗字にある桜。四光には欠かせない札だ」
ドクンと心臓が一際大きく鼓動した。恐怖や驚きではない。感じたのは、奇妙な高揚感だ。
「その名前のとおり、桜坂には俺達の切り札になってもらおう」
松隆くんは怪しい企みごとでもするように目を眇め、その口角は不気味に吊り上がった。
「いいだろう。ぶっ潰してやる」
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