一、私立花菱学園内の勢力図

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 そう話す間も、周りからずっと見られているわけで、なんだか落ち着かなかった。廊下を歩けば顔ごと目を向けられ、階段を上れば二度見三度見され、教室に入ればクラス中が騒然とした。私単体が入って来てもみんな無視するかクスクス笑うだけだったのに……、桐椰くんと歩いただけでこの有様だ。一体、この人は何者なんだろう。  隣に立っている桐椰くんをじっと見上げる。私の視線に気づいた桐椰くんは私を一瞥(いちべつ)してふっと意味ありげに笑い、教室を見渡す。  その口が開かれた瞬間が、始まりだった。 「おい。俺の机と椅子、どこだよ」  第一印象の通り、その声は教室に響き渡った。  息を呑んだのは私だけじゃない、教室内にいる人全員だ。まるで時が止まったかのように、空気が一変する。  この人、何者なんだ。 「なぁ、赤木(あかぎ)」 「な、なんだよ……俺は何もしてねぇぞ!」  一番近くにいるからか、桐椰くんは赤木くんの肩を掴んで振り向かせる。でも赤木くんは生徒会役員だ、本来ならば逆らってはいけない。おそるおそる桐椰くんを見つめていたけれど、桐椰くんは臆するどころか「はぁ?」とガラ悪く、ドスの利いた低い声を出す。 「やったのがお前かどうかなんてどうでもいいんだよ。俺の机と椅子がない、だから用意しろ」  何、だと……。唖然とする私の隣で、赤木くんが「なんで俺が!」と抗議するように立ち上がる。 「お前の机とか知ったことじゃねーんだよ! 大体、俺は──」 「もう一回言うぞ、赤木」  きっと赤木くんは「生徒会役員だぞ!」とでも続けようとしたのだろう。でもその肩書きをアピールする前に、桐椰くんにネクタイごと胸倉を掴まれ、口を噤んだ。 「この俺の机と椅子がない。だから用意しろ」  ゆっくりと、言い聞かせるように、低いトーンで、次はないぞとでもいうように。その横暴っぷりに私が呆然としている一方で、当の赤木くんはごくんと緊張で唾を飲む。 「わ、かった……用意、してくる……」 「あ? いいよ、わざわざどっかから運ぶなんて面倒だろ?」ふん、と小馬鹿にしたように笑いながら肩を竦めて「お前が退けばいい」……出ていけ、と。  本来、この学校では普通の生徒の意見なんて羽虫の羽ばたきほどの注意も払われない。相手が生徒会役員となれば尚更だ、それなのに──。
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