二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

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「それに、そんなに不安なら、当日のアタシと明貴人を見張ってれば?」 「ステージ投票はどうしようもないだろ」 「完全匿名を貫くことは予め告知しておくから、生徒会を贔屓したところで意味がないはず」 「確かに生徒会役員が金自体を撒くのは見たことないけどね……」  それにしたって、こんなに馬鹿馬鹿しい条件をはいそうですかと呑むわけにはいかない。松隆くんの横顔にはそう書いてあった。 「他に説明してほしいことがあるなら言ってくれる?」 「……別に、コンテストの説明自体はどうせ当日聞くだろうし」  なんなら会議資料を盗んで読めば分かることだし、とでも聞こえてきそうな声音だった。松隆くんは深い溜息を吐き、月影くんと目配せして「これだと決められたらそうするしかないか」と諦めたようだった。 「ちなみに、生徒会(きみら)が優勝した場合は? 俺達に何を求める?」 「ま、この学校から出て行ってくれれば一番いいけど」ヒッと(おび)える私を一瞥(いちべつ)して蝶乃さんは怪しい笑みを浮かべ「さすがにそこまでは言わないわ。もし優勝できなかったら、御三家と桜坂さんが卒業するまで無名役員として働くくらいでいいわよ」  私まで含めて無名役員にさせられる……だと? 生徒会の敵対勢力である御三家を無名役員にするのは分かる。しかし、本来ただの一般生徒の私まで無名役員になるのは完全なる巻き込みだ。御三家はなんだそんなことかと言わんばかりに平然としているけれど、冗談じゃない。 「あのう……その、私は御三家と生徒会の勝負に関係ないと思うんですけど……」 「ああ、その条件なら構わない」 「無視!? 私に拒否権は――」 「だから下僕だろ、お前」  黙れ黙れ。 「確認だけど、これに勝てば透冶の事件は洗いざらい吐くんだな?」  総括するように、松隆くんのいつもよりワントーン低い声が響いた。思わず息を呑んでしまったのは、私だけじゃないらしい。蝶乃さんも、まるでその喉元にナイフをつきつけられたかのように一瞬怯えた表情をした後、無理矢理笑顔を作っていた。 「もちろん。情報を洗いざらい吐くというよりは、その事件に直接関わった人そのものを突き出してあげる」 「……分かった」 「アタシが明貴人から聞いたのはここまで。カップルコンテストは事前申し込みが必要だから、桜坂さんと誰が出るのかは連絡してね」 「……ああ」  松隆くんが頷いて立ち上がると、桐椰くんも月影くんも立ち上がる。慌てながらも私も三人に続いて立ち上がる。三人は、こんな場所からは一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりに足早に生徒会室を出て行ったけれど、私は二人にお辞儀をしてから、生徒会室を後にした。
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