一、私立花菱学園内の勢力図

7/51
前へ
/241ページ
次へ
「っ、くそっ」  赤木くんは机の上に広げていた勉強道具を乱暴に掻き集めてカバンに突っ込み始めた。片付け終えた後は隣の席に座っている女子に向かって口を開いたけれど──。 「俺の視界に入るなよ。テストなんだから廊下でも受けられるよな?」  椰くんの冷ややかな声がそれを遮る。赤木くんは唇を噛んで、一度ぐっと押し黙った。 「このっ……御三家だからって調子乗んなよ! お前らなんて、すぐに生徒会が潰してやるからな!」 「ほざけ下っ端。ほら早く出て行け」  桐椰くんに、しっし、と手を振られ……赤木くんは本当に出て行った。私は終始呆然と口を開いたままその様子を静観していたけれど。 「で、お前は席あんの?」  桐椰くんがそれを許してくれない。 「え? あー……ある、けど……」  赤木くんの席を強奪した桐椰くんと違って、私の机はきちんとあった。しかも桐椰くんの隣にだ。いつもと席が違うのは、私の机の上には落書きがされていて、そんな机で試験を受けたい人はいないからだろう。  私の視線を辿ってその机の存在に気付いた桐椰くんは、少し考えるように眉間の皺を深くした。 「おい、代われ」 「え?」  そして、目の前に座る木之下(きのした)くんの椅子を蹴った。木之下くんは「お、俺?」怯えながら振り返る。木之下くんがおどおどしているのはなにも桐椰くん相手に限ったことではないのだけれど、一応生徒会役員だ。 「で、でも……」 「いいから代われよ」  多分、鬼のような形相で睨みつけたのだろう。ろくに返事もできずに「ひっ」と縮み上がった木之下くんが、赤木くんがしたのと同じように慌てて勉強道具を片付けて席を離れた。  次々と出現する犠牲者、その元凶は再び私に視線を向けた。 「座れば?」 「……いや、あの、座ればと言われましても……」  だって、この机は生徒会役員の木之下くんのもので、それでもって桐椰くんは、生徒会役員の赤木くんに逆らったのだ。私は生徒会役員に正当な謝罪を要求しただけで──記憶の中の三週間を振り返る──この有様。今後、何をされるか分かったもんじゃない。  そう、思ったのに。こっそりと様子を伺ったクラスメイトはみんな机の上に広げたノートに噛り付くふりをして“我関せず”を決め込んでいた。誰もが、頼むから私に火の粉が降りかかるのだけは勘弁だ、そう横顔だけで告げていた。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加