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「……もういいや。仕方ないから文化祭まで二人三脚の練習しよう」
「カップルだから二人三脚ってなんだそれ。去年どんな感じでやってたのか、パンフレット見ようぜ。多分総が持ってる」
とりあえず暗幕は貰うか、と桐椰くんは歩き出しながら紙をひらひら振った。横から覗き込めば、B6くらいの更紙に、クラス・文化祭委員の名前・申請日・企画内容を書くようになっていた。
「でもよかったじゃん、稲森さんは松隆くんのファンだから私達に票入れてくれるって!」
「まあ、稲森に限らず、アイツのファン票は堅いだろうな」
「松隆くんってファン多いの?」
「多いな。金持ちで顔良くて運動神経抜群って男に寄ってこない女いないだろ」
「はあ、なるほど。でも遼くんも女子ファン多いもんね!」
「誰が遼くんだ。お前まさかマジで遼くんって呼ぶつもりじゃないだろうな」
立ち止まった桐椰くんに振り向き様に睨まれて足が竦みそうになった。こうしてみると、本当に金髪ヤンキーにしか見えないな。
「でもそう呼ばないと怪しまれちゃうじゃん。遼くんも亜季ちゃんって呼んでいいよ」
「誰が呼ぶか気色悪い」
「じゃあ遼ちゃんって呼んであげようか?」
「やめろ! せめて呼び捨てにしろ!」
「なんか本物のカップルみたいでヤダ」
「てめぇ……」
桐椰くんの頬がひきつって、目元がぴくぴく痙攣した。
「大体、私はカップルごっこなんてしなくてもいいんだもん。遼くん達が透冶くんの事件の真相を知りたいから、この賭けするんでしょ?」
ただ――その表情は、透冶くんの名前が出た瞬間に凍り付く。少し言い方がキツかったかな、と反省する。
「だったら、恥ずかしいとかなんだとか言ってられないじゃん。もちろん、私も御三家に守ってもらえるってメリットはあるんだけど」
気が変わって守らないなんて言われたら困るので、慌てて付け加えた。でもそんな心配は見当違いで……、桐椰くんは少し悲しそうな表情をして黙り込んでいた。松隆くんも月影くんもそんな表情はしないのに、桐椰くんだけがそんな表情をする。
「……ねぇ、遼くん。透冶くんのこと、他の二人が知らないことを知ってるんじゃないの?」
「……だからせめて呼び捨てにしろって言ってんだろ。仕方ねぇから文化祭終わるまで彼女扱いしてやる」
私の質問を無視して「暗幕取りに行くぞ」と桐椰くんは大股で歩き出してしまった。秘密があるのはお互い様か、なんて小さく溜息をついて、その後を追いかけた。
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