二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

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──(四)契約事項には、目的達成に付随した努力を含む──  数日後から、桐椰くんとのカップルごっこ訓練が始まった。第六西にて、私と桐椰くん、松隆くんと月影くんがそれぞれ隣同士に座って、机の上の文化祭パンフレットを覗き込む。 「五年分もあんのかよ……」 「過去問みたいだね!」 「その過去問分析のお陰で、今年のイベントが分かったんだが」  月影くんが眼鏡を押し上げながら、三年前の日付が書かれたパンフレットを手に取った。さすが月影くん、当日蝶乃さんを監視するでもなく私とカップルになるでもなく、事前の調査を担当している。 「三年で一周回るようになってる。つまり、在学中に同じイベントを二回経験することはない」 「だから蝶乃と鹿島が特に有利な点は呼吸しかないわけだよ」  「だから優勝できるよね?」と聞こえてきそうなほど煌めく松隆くんの笑顔が憎い。でも私と桐椰くんも揃って苦虫を噛み潰したような表情をしたから、ある意味では阿吽(あうん)の呼吸。 「んで、今年は何のイベントなんだよ」 「まず両日共に二人(ににん)三腕(さんわん)なのは毎年共通で……」 「ちょっと待て」  ごく自然に珍妙な単語を口にした月影くんを、桐椰くんが制止した。 「何だ、二人三腕って」 「言葉の通りだが」 「だからなんなんだよそれは!」 「二人三脚が二人の片足を結ぶことで一本の脚に(たと)え、よって二人でありながら三脚だというのは分かるな?」 「お前の説明の仕方うぜぇな! つまりあれか? 俺はコイツと二日間手を繋いで過ごさないといけないってことか!?」 「分かってるなら説明を止めないでくれ」  桐椰くん、愕然(がくぜん)。開いた口が(ふさ)がらない。でも私だってそれは同じ。 「え、それ本当……? 私、丸二日間遼くんと手繋ぐの?」 「だからくん付けやめろって言ってんだろ! おい、それどういう仕組みなんだよ」 「厳密には手を繋ぐ訳じゃない。初日に文化祭委員がカップルの両手首を固定するだけだ」 「同じだろ!」
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