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リリーがわざと注目を集めるよう、大声を出しているのはわかっている。彼女は、私を大勢の前で貶めたいのだ。
だって、リリーは私を嫌っているから。いえ、その表現も適切ではないかも。
リリーは私を虐げることに快感を覚えている。こんなのはもう、嫌っているなどとうに超えている。
お母様が亡くなった後、父はすぐさま義母と再婚し、義母とリリーはアーロン子爵家にやって来た。
リリーは私と一つしか年が離れていなくて、私はお母様が存命だった頃から父と義母は関係があったのだと知った。
それを許せずに父を責めると、父は元々義母と結婚したかったが、義母の身分が男爵令嬢だったせいで家から反対されたのだと言った。それで、仕方なく家格が同等の子爵令嬢だったお母様と政略結婚をした。しかし、その後も義母との関係を続け、リリーが生まれたのだという。
酷い話だけれど、貴族にはままあることである。
そんなこんなで、次第に私は家から爪弾きにされるようになった。
使用人たちも義母に一新され、彼らは父や義母、リリーには従順だけれど、私についてはいないものとして、世話をすることもなかった。
義母と義妹はやがて私を使用人のように扱い始め、邸の掃除や洗濯、食事の買い出しやら下ごしらえまでさせるようになった。
でも、そんな私にも、お母様が生きていた頃に繋いだ縁があった。それは、バセット侯爵家の嫡男であるブライアン様との婚約だ。
アーロン子爵家は良質な石が採れる鉱山を有しており、裕福だ。その資産目当てなのだろうけれど、かなり格上である侯爵家と縁が結べるのなら、と決まった婚約だった。
アーロン家で虐げられていても、私はいずれこの家を出る。それを糧に、日々耐え忍ぶ生活を続けていた。
でも、そんなある日──
『エルシー、私は君との婚約を破棄し、リリーと新たに婚約する』
ブライアン様はそう言った。ブライアン様の隣にはリリーがいて、ねっとりと腕を絡ませていた。
リリーはアーロン子爵家の娘となって以降、私の持つ物を根こそぎ奪っていった。お気に入りのドレスも宝石も、お母様の形見でさえ。
涙を堪える私を見て、リリーはいつも恍惚とした表情を浮かべていた。──おぞましいことだけれど、リリーは私を虐げることで快感を得ていたのだ。
物だけでは飽き足らず、ついには婚約者まで。そして、いつかこの家を出るという私の唯一の希望までを、リリーは奪っていった。
そしてついには……
『エルシー、お前はバセット侯爵令息の心を繋ぎとめておけなかった。そんな役立たずな娘など、うちには必要ない! それに、陰でリリーを苛めていることも知っているんだぞ! お前はもうアーロン家の娘ではない。この家からさっさと出て行け!』
リリーが父に進言し、そうさせたのは明らかだった。父には見えないところで、リリーは愉悦の笑みを浮かべていたのだから。そしてそれは、義母も同じだった。
彼女たちは、私から家までも奪ったのだった。
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