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「俺は、自分の見たもの以外は信じない。エルシーは君の言うような人ではないよ。離れろなど、そんなことを言われる筋合いはない」
その声に、ハッと我に返る。
リュート様の釣れない態度に、リリーは一瞬目を見開きつつも、すぐに悲しそうな顔をした。
「……リュート様は、お姉様に騙されているのですわ」
でも、リュート様はそれには反応しない。
そうこうしているうちに、元両親と元婚約者が追いついてきた。そして私を見るなり、顔を歪める。
「何故お前がここにいるのだ? ここは、お前などが来ていい場所ではない」
「申し訳ございません、リュート様。この者は、我が家でも手を焼いておりまして……」
「ふん。こんな女に誑かされるなど、魔法師といえど、さすがは平民だな」
最後のブライアン様の言葉には我慢ならなかった。
私のことは何を言おうと構わないけれど、リュート様のことは……!
私は拳を強く握る。
「落ち着いて、エルシー」
リュート様の優しい声に、私は顔を上げた。リュート様はニコニコと微笑んでいる。
「こういうの、慣れてるから」
その言葉に胸が痛む。
リュート様は平民ながら魔法師となり、王家に表彰されるまでになった。
魔力量が多く、それを扱える才があれど、ここまで来るのに平民の身ではさぞや大変だったことだろう。
魔法師は誰もが羨む職業であり、周りはほぼ高位貴族で占められている。そんな中、平民がたった一人……。功績をあげるまでは、針の筵だったと思う。
「別に誑かされてなどいませんよ。俺はむしろ、あなた方の感覚を疑います。こんなに素晴らしい女性を貶すなんて。……不愉快だ。エルシー、行こう」
そう言ってリュート様は私を促し、この場から離れた。チラリと振り返ると、忌々しげな表情を向けられている。
「想像以上にク……厄介な奴らだ」
リュート様が呆れたように呟いた。
今日はリュート様にとって晴れの日であるにもかかわらず、こんな表情をさせてしまうなんて。
「私は平気です。それより、リュート様が……」
「俺だって平気だ。俺の人生に全く関わらない奴らに何と言われようと、心底どうでもいい」
こういう人だから、エリート揃いの魔法師団で、団長の右腕とも言われる存在になれたのだろう。本当にすごいことだ。
私たちが微笑みあっていると、音楽が変わり、それに合わせて王家の方々が入場してきた。皆が臣下の礼をとる。
その後、陛下は皆に面を上げさせると、リュート様の表彰を行った。
「王立魔法師団、団長側近リュート、国境沿いで確認された魔獣の異常発生を食い止めた多大なる功績を称え、報奨金と子爵位を与える。それとともに、かつてのワーナー領をそなたに授けよう。これからは、リュート=ワーナーと名乗るがよい」
「身に余る光栄でございます。謹んで頂戴いたします」
その瞬間、会場中に拍手が沸き起こった。
平民であるリュート様が、この瞬間をもって貴族となる。
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