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「彼女はエルシー。俺……いえ、私の婚約者です。私は彼女のおかげで、ここまでやってこれました。陰に日向にと支えてくれた彼女とともに、新たに賜りましたワーナー領を治めていこうと思っています」
リュート様がこう言い終えた後、空気が揺れた。
ザワザワと騒がしくなり、あちらこちらから囁き声が聞こえてくる。それは、決して好意的な声ではない。
「あの令嬢が婚約者?」
「どこかで見たような……」
「アーロン子爵家の令嬢じゃなかったか?」
「なるほど、あの御令嬢か。確か、元平民の義妹にも負けるほどの魔力しか持っていなかったのでは……」
強く瞳を閉じる。
そう、私の中には僅かな魔力しかない。そのことも、私が虐げられる原因となっていた。
しかし、そのざわめきは突如消える。スペンサー侯爵様の一声によって。
「そうだな。エルシー嬢のおかげでお前の魔力は底上げされ、先の戦いでも活躍できた。それに、魔法陣の研究に没頭しすぎて、魔力切れを起こすこともなくなったしな」
その言葉に、周囲は唖然とした。
「魔力を底上げ?」
「なんだそれは。聞いたことがないぞ」
「いったいどういうことだ?」
これは、つい最近判明したことだった。解明したのは、スペンサー侯爵様だ。
私は、普通の貴族よりも魔力量が少ない。それこそ、元平民のリリーにも負けるほど。
それもあって、アーロン子爵家では冷遇され、挙句の果てに放逐されたのだけれど、リュート様と暮らすようになって彼が気付いたのだ。
『エルシーが来てくれてから、身体の調子がいいんだ。栄養満点の美味しい食事を取るって、大事なんだね』
最初はそんな感じだった。でも、段々とそれだけではないとリュート様は思い、上司であるスペンサー侯爵様に相談したそうだ。そこで、様々な検証をし、判明した。
私は保持する魔力量は少ないけれど、それとは別に、ある力を有していた。他人の魔力を底上げする、という力を。
ちなみに、私が意思を持って「魔力を上げたい」「助けたい」と思わなければ、この力は発動しない。
私は日々、懸命に魔法師団の仕事に取り組むリュート様を応援したかった。毎日クタクタになって帰ってくるリュート様を助けたかった。その想いが、これまで眠っていた私の力を目覚めさせ、発動させたのだ。
「さすがは我が娘だ! リュート様との結婚式は盛大にしよう。エルシー、すぐに婚礼の準備を始めるぞ!」
場違いなほど大きな声をあげ前に進み出たのは、アーロン子爵。
これまで見たこともないような笑顔である。そしてそれは、隣にいる義母もだ。リリーだけは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
打算的な父は、私を利用しようとしている。私に思わぬ能力があることが発覚した今、味方につけ、その恩恵を受けようとしているのだ。
図々しいにも程がある。こうもあからさまな手のひら返しに、さすがの私も怒りに震えた。
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