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令和・結婚式の直前に
「お祖母ちゃんもうすぐ到着するって」
四月の空は晴れ渡り、まさに挙式日和。新郎新婦とその家族が控室に集合している。
「お祖母さん、入院してるんだよね?」
「うん…でも最近は調子いいって」
新婦菜摘の、安堵の笑みがこぼれたこの時。
「お待たせいたしました」
「お祖母ちゃん!」
爽やかな水色のワンピースを、これまた上品に着こなした祖母が登場した。
彼女は一同に向かい丁寧に頭を下げる。関東からはるばるやってきた、新郎の家族へも感謝の笑顔を向けたなら、
「……あら?」
表情は素に戻り、目をぱちくりと見開いた。
「あなたは……」
その熱視線に絡め取られたのは、ロマンスグレーの悠然とした老紳士。新郎の祖父であった。
「あれ。もしかして、恵子さん…?」
それぞれ伴侶を亡くしてだいぶたつ、老人ふたりの時の流れが今、止まった。
──きっと私たち家族は誰も知らない遠い日に、ふたりしてタイムスリップしたのだ。
本日の主役、菜摘はそう感じた。
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