第一章 白紙の夢

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第一章 白紙の夢

「そんなの思いつかないよ」  陽花はわら半紙を片手に呟き、天井を見上げた。  職員室がある廊下の奥には進路指導室がある。大学のパンフレットも会社の求人もすぐ近くにあるし何か降ってこないかな、と思ってもみるがそんな訳もなく視線をわら半紙に戻した。  明朝体で書かれた『進路希望調査票』という文字が目に入ってくる。 「夏休みは長いようで短いんだよ。そんな短期間で決まる訳ないじゃん。本当に何もないのに。勉強は得意じゃないし、やりたい仕事もないし…」  小声で文句を言いながら最近ハマっているうさぎのキャラクター・うさちゃむのマスコットがついた黒いスクールバッグを開ける。  親友の紗理奈に「うさちゃむだらけ」と評された持ち物の1つであるクリアファイルを取り出しそこに進路調査票を入れた。  うさちゃむは、最近流行っているうさぎのキャラクターだ。元々はTwitterで連載されていた漫画で、黄色の体にキラキラした瞳、オレンジの花の冠が特徴のうさぎの女の子だ。そんなうさちゃむは、女子力をあげるためにいつも努力をしているけどいつも不運に見舞われて失敗する、というのがいつもの話のオチである。  とはいえ、そんなうさちゃむですら「女子力をつける」という夢を持っているのだ。なのに陽花は何の夢も持っていない。    別にうさちゃむみたいに不運に恵まれてばかりの人生を送りたいだなんて思ってないけど、今は少しうさちゃむが羨ましかった。 「本当どうしよう、あれ」  蒸し蒸しする廊下でそう呟いてため息をついた。
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