人生の寄り道

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「あー、気持ちよかった」  そう言って、私は俊也にまた一つ、キスをした。それに応えるように俊也もまたキスを返してくれた。 「俺ら、やっぱ相性良いのなー。久しぶりに気持ちよかった」  小さく笑うように俊也が言葉を落とす。久しぶりに気持ちよかった、というのは、彼女と気持ちよくないという意味なのか、すること自体が久しぶりなのかは図りかねたがどちらでも良かった。私たちの関係にそんなものは聞くだけ無駄というものだ。  お風呂は一緒に入った。私はとにかくくっつくのが好きだから、人とお風呂に入るのが好きだった。それも初めての人なら緊張もするのだけれど、相手が俊也ならそんな心配もいらない。私は私の望むすべてを文句も言わずに全部受け入れてくれるこの男をいいな、と思った。また、こういうこともしてもいいかもしれない、と。  後ろめたさがないとは言い切れなかったけれど、正直、だったらしてくれない彼氏が悪いとどこかで開き直る自分がいた。明らかに私は求めていることを、ちゃんと話し合ったことまであるのだから。それも一度や二度じゃない。それでもレスは解消されなかった。だから、私は遊ぶことにしたのだ。  新しい相手を探すのは体力がいるし、関係を作っていくのも面倒だけれど、元カレや元セフレとこうしてある意味復縁を果たすのはありだな、と頭の中にメモをする。  昔はこんなんじゃなかった。こんな風に浮気をするような人間ではなかったのだ。これも、結局は惰性で人と付き合ってできた副産物ということだろう。もし、生まれ変わるなら今度こそしっかり愛してくれる人と添い遂げたいと思った。現世はもう諦めていた。だから、遊べるうちに遊んでおこうと思ったのだ。女の賞味期限は男よりも短いことは分かっていた。だから、できるうちにやっておかないと、それこそ後悔を残すことになる。  今度は、人生で一番キスの相性が良かった人を誘ってみようと思った。あの蕩けんばかりのキスを、もう一度でいいから味わってみたいと思った。もうそれくらいしか私には女としての悦びがないのだなと思ったら、すこしだけ寂しさが心を掠めたのだった。俊也の腕の中はひどく安らかに眠れた。もうそれだけで、今の私は幸福だった。
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