人生の寄り道

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 ”今度、飲みにでも行かない?”  そんな文字を送ったのは、十年近く経つだろうか、昔の元彼だった。俊也(しゅんや)とは別れてからも数回だが、飲んだことがある。別れても友達に戻れるタイプの相手とは友人関係を持続するのが私の性格だった。相手がそういうタイプではないのならそれに合わせるし、どちらでも構わない。ただ、男として好きになる前に人として好きになった相手だからこそ付き合ったのだから、別れて友人に戻るのは私の中では至って普通、という感覚だった。  けれど、今回は少し趣旨が違った。私は飢えていた。そう、飢えていたのだ。今の彼氏とはもう二年という期間、セックスレスが続いていた。まだ三十も半ば。そんな私が同棲を始めた彼氏と半年でレスになるなどと、誰が思っただろう。同棲を始める前まで、いや、同棲半年まで、私たちは確かにラブラブと形容できる関係だったはずだ。そして、今だってレスが続いているというだけで傍から見ても自分たちから見ても仲が良いカップルだという自覚はある。なのに、だ。  そうして、私は女を失ったような心地で過ごしていた。毎日は楽しい。彼が愉快な人なので、日常毎日笑って過ごしているのは事実で、そこに不満は少しもなかった。けれどいざ夜になると、彼は疲れたと言って寝てしまう。この二年の間に夜這いのように二度ほど彼を襲ったこともある。けれど、その時はしてくれるのだがそれっきり。そういう関係がもうずっと続いていた。  ”珍しいじゃん、連絡してくるなんて。いいけど、彼氏は?”  そう返信が来たのは、私が連絡をしてから三日後のことだった。こんなに連絡の遅い男だったか、と考えるけれど、話に乗ってきてくれるということは本当に単に返信が遅かっただけのこと。興味が失せているのなら、返信が来ないままだっただろう。私は、この連絡に下心を載せていた。  ”いるけど、友達と飲みに行くって言えば何も言われないよー”  私はそう返信した。実際、俊也とは何度か飲んでいるけれどそれだけだった、はずだ。たぶん。私は一時期男遊びに明け暮れていた時期があったので、その辺は断言できないのが残念なところではある。けれど、一度大好きな彼氏ができるとものの見事に遊ばなくなるのだから、誰に迷惑をかけるわけでもなかった。それを悪いことだとも思っていなかった。いつかは若気の至りだったと思う時期が来るだろうと思っていて、それは本当にやってきた。だから、今の彼氏と付き合って四年半、私は一度として男遊びなどしてこなかった。けれど、それももう限界が来ていた。もうお腹が空きすぎて仕方がない、というところまで来てしまったのだった。
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