ディスり合いの裏に隠された真実

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 今、我が社の第一営業部総務課のグループLINEはとんでもなく荒れていた。元から中の悪かった国崎と重梨がとうとうLINEでもバトルを開始してしまったのだ。チームの団結をより深めようと、というよりこれで若い女子社員と親睦を深めてあんなことやこんな事をしようとしていた課長はこのある程度予測はしたけど、まさかこんなにもすぐになるなんて思わなかった事態に頭を抱えた。他の社員は連絡はメールか電話でお願いしますと訴えLINEから完全に逃げている有様だった。しかし当然ながらいくらネットで逃げても現実からは逃げられない。今日も国崎と重梨は揃って会社に来ていた。当然ながら二人の席は出来る限り離してあるが、それでもバチバチの緊張感は総務課中に漂っている。他の総務課の社員の中にはその緊張感に耐えきれず早退することもあり、また他の営業部からもどうなっているのかとクレームが来ることがあった。  そんな緊張感が漂う総務課の中で国崎と重梨は自分の席でひたすらPCのキーボードを叩いていた。他の社員は二人のキーボードの一音一音にボクシングのジャブのような、或いは刃先を合わせたような緊張感を感じただただ震え上がるのだった。このあまりに仲の悪い国崎と重梨は同期入社で揃ってこの総務課に配属された。国崎は男性社員でわりかし快活な男で、重梨も明るい女子で別にコミュ障というわけでもないから入社当初はそれなりに会話もしていたのである。だが一年も立たないうちに互いに全く口を聞かなくなり、二年目で公然と罵倒し合うようになり、そして三年目の今年は罵倒どころか完全に互いを粗大ゴミかなんかのように扱うようになった。  課長に向かって他の社員はこの事態を受けてグループLINEを消したらどうかと訴えた。しかし課長はそれに対して、むしろグループLINEがあるからこそあの二人はここで喧嘩することが少なくなったのだからもうしばらくこのままにしようと提案した。これには他の社員も確かにそうだと納得した。別に通知を消せばLINEなど見なくてもいい。無視だ無視。あの二人にはLINEで好き勝手に罵倒合戦やらせとけ。  というわけで国崎と重梨は昼休みと業務が終わってからの時間ずっとグループLINEで互いを罵倒し合っていた。 国崎 おい、いつ会社辞めんだよ。 前からずっと思っていたけどもう耐えらんねえよ。だからここでハッキリ言わせてもらうよ。 ガンなんだよ、ハッキリ言ってお前は。能無しのくせにいつまでこの会社に残ってんだよ! 素直にやめろよ!今まで迷惑ばかりかけてすみませんでしたってさ。 キッパリ辞表出して辞めちまえ! 重梨 私がやめろってぇ?なんで私が辞めなきゃいけないの?あなたが辞めればいいじゃない。 もう一度どころか何度だっていうわよ。早く辞めてよ。そうすれば空気がだいぶ綺麗になるんだから。 すぐやめろ!今すぐやめろ! キモいんだよ。お前は! 国崎 ああ、お前も俺と同じ意見だね!だけど俺は辞めねえよ! 離職したら田舎の両親に申し訳が立たねえからな!ったくなんだよお前は!自分のダメさ加減を棚に上げてよくそこまで人をディスれるね。みんなお前をなんて言って知ってる? 蛾だよ。お前は電灯に群がってるあの蛾だよ。 当然のように見放されてんだよお前は。この会社に、いやこの日本から! 重梨 すっごい事言うねあなた。 なんでそこまで酷い事言えるの? お父さんもお母さんも一人娘が同僚からそんな事言われてるって聞いたら泣くよ? ニコニコしてるあの子がなんでそんな事言われなきゃならないんだって悔し泣きするよ。 成田離婚しないでちゃんと一人娘をちゃんと育ててきたのにってさ。 退職するなんて言ったらお父さんもお母さんわけわかんなくなるよ! 国崎 ケッ、なに泣き言言ってんだよ! 今度は泣き落としのつもりか? 私のパパママが悲しむから悪口やめてってか!人の事散々ディスっといていいご身分だな! 用無しなんだよお前は!さっさと会社辞めちまえ! 重梨 は?何が泣き落としなのよ。私がお前なんかにいつ泣き落とししたんだよ! 言えよ!今すぐハッキリ私にアンタの本音を全部言えよ!そしたら私も本音を言うからさ!  それから一週間経った朝、オフィスにやってきた総務課の社員たちは課長の前に国崎と重梨か並んでいるのを見てびっくりした。あれだけリアルでもネットでもいがみ合っていた二人が揃って並ぶとはなんだろう。まさか二人とも懲戒免職かと思った瞬間、国崎と重梨は課長に向かって揃ってこう言った。 「私たち国崎重梨は結婚しました!」
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