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2.
失恋した翌日、泣き腫らした目もそのままに学校へ行くと、友人の夏海に心配された。
「莉子? どうしたその目。ものもらいか?」
そこまでひどいかな、と思いつつも家から持ってきた保冷剤を目に当てながら、片島くんに振られた事実を夏海に話した。彼女はわたしの背中を優しく撫でながら「莉子はよく頑張ったよ」と慰めてくれる。
「見込みのない恋愛なんてするだけ無駄だ。次行こ、次!」
「うん、ありがと」
そうは言うものの、本当に好きだったので立ち直るまでもう少し時間がかかるだろう。食欲も落ちて、痩せて、体形がよくなって……あれ? そうすればもしかしてまだ見込みがあるかもしれない……?
ポジティブなわたしが落ちた穴から顔を出した。片島くんの好きな人より見た目がよくなれば、もしかしてワンチャンあるかも?
「夏海。わたし、諦めない」
「は?」
「痩せて、いい女になる! そうすれば、片島くんもわたしを見てくれる!」
「いや、あんた別に太ってないし、片島よりいい男なんてたくさんいるから」
「わたしは片島くんがいいのっ!」
そう言い切ってからハッと口を押える。声を出しすぎた。しかし、他のクラスメイトは自分たちの世界に夢中で誰も聞いていないようだった。
ホッとしたのも束の間、ひとりの男子生徒がこちらを見ていた。目が合って、手に持っていた保冷剤を床に落とす。
片島くんだった。
「あー……聞こえた?」
「うん。しっかり聞こえた」
ちゃんと振られたくせに諦めが悪くてキモイなって思われたかな。これ以上嫌われるのは困るんだけどな。
片島くんはなぜかわたしに近づいてきて、「あのさ」とわたしの前で足を止めた。『俺にこれ以上関わるのはやめてくれる?』なんて言われたらどうしよう。少しだけ身構える。
しかし片島くんは穏やかな顔で言った。
「言い忘れてたんだけど、告白してくれてありがとう。気持ちには応えられないけど、普通にうれしかったよ」
片島くんが光って見えた。彼の頭上に輪っか型の電球が見え、背中には大きな白い羽が生えている。まさに天使のようだった。
わたしの好きな人、振った対象に対して優しすぎん? いや、逆に釘差してんのかな。『これだけ言えば満足だろ。これ以上俺に関わるな』って。
「いや、大丈夫。こっちこそいろいろとありがとう」
片島くんの眉尻がなんとなく下がっている気がする。申し訳ないと思っているのだろうか。わたしもちゃんと笑えてるか不安だけど、一応笑ってみせた。もし振ったことを気にしてるんなら、気にしないでいいよって伝えたかった。本当はすっっっごく気にしてほしいけど。片島くんの頭の中をわたしでいっぱいにしたいくらい気にしてほしいけど。
すっきりしない顔のまま片島くんはわたしから離れていった。一部始終を見ていた夏海は「なにあれ」と首を傾げる。
「莉子のこと振ったけど、ずっと俺のことを想い続けてほしい、的な?」
「片島くんはそんな人じゃないよ。優しいから、泣き腫らしたわたしの目を心配してくれたんだよ、きっと」
「ふぅん」
夏海は納得していないけど、わたしはそういうことにしておいた。
落ちた保冷剤を拾う。冷たさが心の温度みたいで、また涙が出そうになった。
こうなったら絶対に痩せてキレイになって、片島くんに振り向いてもらうしかない!
そう思っていたのに、昼休憩の時間になって身体に異変が起きた。
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