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「今日はスティックチョコパンあげる」  昼休憩になると、片島くんはわたしにパンをくれるようになった。あれからもう一週間だ。わたしの食欲は戻り、自分の弁当を持ってきているから別にいらないんだけど、毎日○○パンのマンになっておすそ分けしてくれるから、ありがたくもらうことにしている。 「片島のやつ、やっぱ莉子に落ちたんじゃないの? 毎日なんか寄越すじゃん」 「寄越すって言い方やめてよ。片島くんは罪悪感に苛まれてるんだよ」  わたしはそう言ったけど、ひとつ心配がある。最近の片島くんは、なんだか元気がないように見えた。そしてわたしの食欲が回復した代わりに、片島くんの食欲が落ちているように思う。だって、もらったスティックチョコパンは全部で5本入りなのに、片島くんはそのうちの2本をわたしにくれたんだよ? 見たところ、今日の片島くんのお昼はその残り3本のみ。高校2年生の男子って育ちざかりで食べまくりだよね? 細いスティックチョコパン3本だけでお腹が満たされるとは到底思えない。  彼に何かあったに違いない。好きな人の変化に、乙女は敏感なのだ。  放課後まで待って、帰り支度をしている彼に近づいた。 「片島くん」 「……富永さん。なに?」 「お腹、空かない?」  突然の問いに、片島くんは眉尻を下げて困った顔をした。食欲はない、という返事だ。  人にあんぱんやチョコパンを差し出しといて、自分は食欲がないなんて。どういうことだろう。  わたしの疑問を感じ取ったのか、片島くんは教えてくれた。 「俺も、富永さんと同じように好きな人に振られたんだ」 「わたしと、同じように?」 「うん。俺、好きな人がいるって言ったじゃん? 富永さんが勇気出して俺に告白してくれたから、俺も見習って告白したんだ。そしたら、玉砕した」 「おお……」  思っていたよりも行動力がある片島くんに、少々驚いてしまった。わたしを見習ったなんて…… 「ちなみにそれって、いつの話?」 「富永さんに告白された、翌日の昼休憩」 「……あんぱんくれる前?」  片島くんは静かにうなずいた。一週間も前の話だ。彼はそれからずっと自分に食欲はないくせに、わたしにパンをくれていたわけか。 「こんなにショックなんだな、好きな人に振られるのって。いまさらながら富永さんの気持ち、すごくよくわかるよ」  わたしの好きな人は、バカだった。わたし以上にバカだった。『富永さんって変わってるね』と言った片島くんに『あなたのほうが変わってるよ』と言ってあげたい。普通は触発されて告白なんてしないんだよ、と目を覚ましなさい、と言ってあげたい。  でも。 「……わかってくれたんなら、よろしい」  わたしは片島くんに、お返しを差し出した。彼はわたしとそれを交互に見る。 「……メロンパン?」 「うん、メロンパン。片島くんはあんぱんのマンになってくれたから、今度はわたしがメロンパンのウーマンになってあげる」  はい、と片島くんに押しつけると、彼は若干首を傾げながら受け取った。かさりと袋が音を立てる。 「俺、食欲ないんだけど」 「それでも食べなさい」  思ったよりも強めの言葉が出てしまった。片島くんも目をパチクリとして驚いた顔をしている。でもわたしは訂正しなかった。精一杯強がって片島くんに言う。 「食べないと元気出ないよ」  食欲をなくすほど、相手のことが好きで好きでたまらなかったのだろう。それはわたしも同じだけど、わたしの場合はすぐお腹が空いてしまった。
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