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1.
わたしは人生で初めて好きな男の子に『告白』というものをした。ベッタベタに体育館裏に呼び出して、「ずっと前から好きでした」と思いの丈をぶつけた。
「わたしと、付き合ってください!」
右手を差し出して頭を下げる。この手に彼の手の温もりを感じることができたら、告白は大成功――
「ごめんなさい」
手に温もりどころか、冷たい返事だった。顔を上げて告白した相手、片島晃を見る。
特筆して顔がいいわけではなかった。普通も普通、平凡も平凡なクラスメイトなんだけど、なぜかわたしは気がついたら惹かれてしまっていた。
毎日毎日彼のことを考え、想い、ついにこの気持ちを伝えたいという欲求が出てきた。伝えなければ爆発しそうなほど、熱を持っていた。
だから告白したというのに。
「富永さんのこと、そういうふうに見たことないから、ごめんなさい」
きっぱりと片島くんはわたしを振った。
「……え? わたしと付き合ってくれないの?」
「いや、だから今言ったよね。富永さんのこと、そういうふうに見たことないって」
「『見たことない』ってことは、これから見てくれる可能性があるってこと?」
「……あー、ごめん。俺の言い方が悪かった。ほかに好きな人がいるんだ。だから、富永さんのことはこれからもそういうふうに見られない」
食い下がってみたが、ダメだった。希望さえ残さず振ってくれる様子に、わたしはむしろときめいた。
やっぱりわたしが好きになった人は、素敵だ。見る目あるじゃん、わたし。
「片島くんの好きな人って誰?」
「え。言うわけなくない?」
「なんで? わたしはもう片島くんの彼女にはなれないんでしょ? 友だちとしてなら聞いてもいいよね?」
「……富永さんって、変わってるね」
片島くんは心底不思議そうに首をひねった。変わってる、と言いながらもわたしに引く様子はない。偏見や先入観を持たない人なのだろう。さすがわたしの好きな人。振られたけど。
放課後の体育館裏とあって、体育館の中からボールが床に打ち付けられる音や、シューズがこすれる音が聞こえてきた。バスケ部だろうか。その青春の音の中、わたしの青春はガラガラと音を立てて崩れてしまった。
そうか。わたしは振られたのか。なぜか今になってぐつぐつと、振られた事実がわたしの中で煮えてくる。
「…………」
「富永さん?」
黙ってしまったわたしを心配してくれているのか、片島くんが優しい声をかけてくれる。
喉の奥が熱い。その熱が鼻の奥にまできて、ヤバいと思った。このままじゃ、泣く。
「片島くん、ちゃんと振ってくれてありがとう! これからも変わらず接してね!」
じゃ、と自分で呼び出したにもかかわらず、わたしはその場を後にした。
中学のとき、卒業式で好きな人に告白をしたことがある。そのときは片島くんに対する想いとは少し違って、『最後だし、一応想いを伝えとくか』くらいの気持ちだったので、『ごめん』と言われてもそんなにショックは受けなかった。多分好きというより憧れの方が強かったんだと思う。
でも、今回は違って。片島くんに対しては隣でずっと笑っていてほしかったり、わたしだけを見てほしかったり、手を繋いだり、ハグをしたり、恋人じゃないと許されないようなことをしたいという『好き』だった。片島くんからわたしと同じだけの『好き』をもらいたかった。
それが、叶わないなんて。
なんとか鼻の奥でせき止めていた涙が、歩きながら決壊した。視界がぼやぼやとして両目から両頬、そして顎の下まで一気に流れる。
「ううっ……」
後ろから片島くんが追ってくる気配など微塵もない。
誰もいない渡り廊下に立ち尽くし、わたしはしばらく、失恋の海に流されていた。
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