しあわせを運ぶおてて

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 晴れて穏やかな春だ。  私はベッドに横たわって風にやさしく揺れるレースカーテンを眺めていた。  昨晩から調子が悪いなと思っていたら、朝にはしっかりと発熱していて、普段、私がやっている朝ごはんと弁当を作り、たっくんを起こして幼稚園まで届ける仕事をれんさんがこなしてくれた。   そのあと有給を取ったと言って私の看病までしてくれて、いざこうなってみると、何だ。あなたにもできるじゃないか。と夫を見直した。  ようやく熱が引き、動けそうだ。 「ただいま〜!」  ちょうどたっくんとれんさんが幼稚園から帰ってきた。 「ママ〜!」 「はいはい、ちょっと待ってね。」  私は体を起こした。 「ただいま〜。」 「おかえり。」 「これ、お土産。」  れんさんの腕には桜の枝が数本、抱かれている。 「桜だ!」 「たっくんとママにお土産持っていこうって、花屋に寄ったんだ。」 「きれい〜ありがとう。たっくんもありがとうね。」 「うん!あとね、もうひとつあるよ。」  たっくんが目の前に差し出した両手は、やわらかに球を描いて何かを閉じ込めている。  一瞬、虫ではないかと身構えるが平静を装う。  小さな球が開くと、 「わあ!可愛い!」 そこには1つの大きな桜の花があった。 「ぼくが見つけた!きれいなやつ!」 「え〜うれしい!ありがとう〜!」  たっくんの手に乗る桜が、私の手へ桜がころんと転がる。私の手に乗ると、とても小さな桜の花だ。  こんなにも儚いものをつぶさずに持ってきて、相当大切にしてくれたのだろうと思うといじらしくい。  私はたっくんを見たけれど、たっくんはすぐに小躍りしながら行ってしまった。 「公園の桜がちょうど見ごろで、これ買ったあとにたっくんが自分もママにあげるって言ってさ、選別してたんだ。」 「そうなの、嬉しい。」 「羨ましいなあ。」  私たちは笑って、たっくんの桜を見つめた。  くたびれた花びらの輪郭に、たっくんのあたたかくて潤った手の温もりを感じる。  れんさんの抱える桜からは、ほんのりと春の香りがした。 〈了〉
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