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「単に聞いただけで、他意はない。聞く? そっとしとく? 」
「あ、えっと。そっとで」
「ん。じゃあ、せり、元気してんの」
「せりも、夏休み会ってなくて」
私がそう言うと小野原くんの目が少し揺れた。
「喧嘩したとかじゃないよ。ただ何となく会う機会が無かっただけで」
言い訳みたいに聞こえるだろうか。本当にそうなんだけど。
「そっか。……じゃあ、もし何か言ってきたら話くらいは聞いてやって」
「う、うん! もちろん! もちろんだよ! 」
また大きな声が出てしまったけど、小野原くんはふっと笑った。いつもは鋭い切れ長の目が優しく細められた。それから、数秒私を見つめて前を向いた。私も前を向いたタイミングでどっと汗が噴き出る。うっわぁ。何今の間とか表情とか。この圧倒的な空気感。こうやって話して、ちゃんと目が合うと見透かされそうで、わずか数秒も耐えられずに、目を逸らしそうになった。この距離で微笑めるってすごいな。何もしてないけど、ごめんなさいって謝りそうになる。
……女子慣れというか場数踏んでるというか、恋愛における経験値というものが、明らかに高いだろうなってわかる。精神年齢が突出して、吞まれそうになる。多分、16歳じゃないよ、この人。あんなに可愛いせりに動じないうえに、何考えてるかわからないってせりが言う意味がわかった。普通の男子じゃない。
この一瞬で思いっきり動揺させられたこと、せりには言えないな。
せり~、これは手ごわいよ。何かせりに協力できることないかなって思ったけど、私じゃお手上げだ。
モテるよ、この人。
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