5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ハッと我に返る。
目の前には課長の顔。
そして、今まさに大手取引先への商談を依頼されてる最中だった。
「では頼んだよ? これが上手く行ったら、上役に君を推薦するから」
課長のその言葉に心底ホッとする。
よかった。戻って来た。
あのまま死んでしまったかと思った。
「お任せください。この商談、必ず成功させます」
オレはそう言ってオフィスを出た。
時刻は午前十時。
しかしオレはタクシーには乗らなかった。
事故るとわかってるタクシーに誰が乗るものか。
目の前を通過するタクシーと、その後ろからものすごい勢いで通り過ぎていくトラックを見つめながら、オレは駅の方に向かって歩いて行った。
しかし。
ドスッという熱い感触が脇腹に感じた。
振り向くと、そこには見知らぬ男。
そしてオレの脇腹にナイフが突き刺さっていた。
「うぐ……」
な、なんだ?
なんでオレの脇腹にナイフが刺さってるんだ?
男はオレに刺したナイフを引き抜くと「ふへへ」と笑った。
「い、い、い、いいスーツ着やがって。この日本の社畜め。みんなしてクビになったオレをあざ笑いやがって。死ね死ね。みんな死んじまえ」
言ってる言葉が支離滅裂だった。
もしかして、無差別殺人というやつか?
オレ、無差別殺人犯に襲われてしまったのか?
男は明らかにイッちゃってる目をしていた。
「ぐう……」
腹をおさえながら腕を伸ばす。
こんな所でこんなヤツに殺されるなんて、まっぴらごめんだ。
オレは精一杯の力で腕時計のリューズを押した。
最初のコメントを投稿しよう!