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「な、なんだったんだ?」
不思議だった。
いまさっきまで手にしていた腕時計が消えるなんて。
けれどもさらに不思議なことが起きていた。
掘っていた地面が綺麗に元通りになっていたのだ。
三、四人くらいで掘っていたからかなり大きな穴だったはずである。
それがものの数秒で元通りになっている。
なんだこれは。
いったいどうなってるんだ。
呆然とたたずむオレの耳に、榊の声が響いてきた。
「知ってるか? 桜の木の下には死体が埋まってるらしいぜ」
声のほうに顔を向けると、会社のみんなは穴掘りなどまったくしておらず、ブルーシートの上で酒をあおっていた。
そしてそんな榊の言葉に合わせてみんなが応える。
「えー? マジー?」
「じゃあこの下にも死体が埋まってるのー?」
「やだ、こわーい」
こ、これは……。
さっきみんなが発していたセリフじゃないか。
どういうことだ?
わけもわからずポカンとしていると、先ほどと同じく「ここ掘ってみようぜ」となり、みんなは掘るための道具を探し始めた。
そしてこれまた先ほどと同じく、榊が管理小屋から数本のスコップを持ってきた。
「おーい、こんなの見つけたぞー」
榊はみんなにスコップを手渡していくと、再度地面を掘り始めた。
ここにきてオレは思った。
これは……時間が巻き戻っている?
信じられないが、事実だった。
現に、さっきまで掘っていた穴が元通りになっていて、これからまた掘り進めようとしているのだ。
時間が巻き戻ってないと説明がつかない。
やがて同僚の一人が「ふう、疲れた。ほれ、交代」と言ってオレにスコップを手渡した。
オレはそれを手にスコップで地面を掘っていく。
そして同じように金属の箱にぶち当たった。
恐る恐るそれを拾い上げ、中を開ける。
やはりアンティークな腕時計が入っていた。
それを手に取り、しげしげと眺める。
特におかしなところは見当たらなかったが、リューズの部分が普通の腕時計よりも出っ張っていた。
そこを指でちょこんと押すと、再度電流が身体中を駆け巡った。
「あがっ!」
ビリビリ衝撃が走ったものの、今度は腕時計をしっかりと握っていた。
しかし、気づいたら手の中の腕時計は消えていた。
そして先ほどと同じ場面が繰り返されている。
「知ってるか? 桜の木の下には死体が埋まってるらしいぜ」
「えー? マジー?」
「じゃあこの下にも死体が埋まってるのー?」
「やだ、こわーい」
ほ、本物だ……。
本物の時間巻き戻し装置だ……。
オレの心臓が一気に高鳴る。
これはうまくすれば人生楽しくなりそうだ。
さっきのやりとりを再度繰り返したオレは、桜の木の下に埋まっていた腕時計をこっそりと懐に入れたのだった。
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