ないのだ

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ないのだ

その日の帰宅後から、俺の悩みは始まった。 美梅ちゃんをいじめる奴がいたとして、どう鉄槌を下そうか。 そいつの背後にある巨大組織に、どう潜入して壊滅させようか。 日本を牛耳るフィクサーは誰だ。おそらく与党の陰に隠れた奴だろう。 世界の陰謀とは何だ。美梅ちゃんを奪うため、第三次世界大戦でも起こそうってのか。   考えれば考えるほど、絶対的に足りないものが見えてきた。俺はそいつを手に入れなければ、これから始まる惨劇を伴う死闘を乗り越えられやしない。   俺が憧れてきたヒーローが揃って持っている勲章のようなきらめき。 どうやって我が魂に宿せばいいのか分からない。 進化の過程で得られるなら、何故に人はそれぞれ持っていないのか。   俺にはない。そうだ、ないのだ。   願えば手に入るものではない。岩をも通す一念が生み出すのか。くそ、答えは間近にある気がするのに、思いつきやしない。
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