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バレンタインにチョコを渡すのを秘密にしよう
だんだんバレンタインの日が近づくにつれ、クラスメイトの話題はピンク一色だ。
バレンタインチョコと聞くと、手作りのイメージが僕は強い。
それはクラスメイトの大半の女子から、手作りなのに友チョコをいっぱい貰っているせいだろう。
女の子扱いしてくる者、幼児扱いしてくる者からチョコを貰う?
全くもって嬉しくない。
しかし、それは私情であり、チョコに罪はない。
罪があるとすれば、口に含んだ瞬間に甘さが舌に絡みつき、それこそ罪深いおいしいものに出会えること。
それか、ホワイトデーのお返しを考えないような、失礼なことを考える奴こそが罪だと僕は考える。
手作りには、その人なりの思いや想いがあって作られている。
それを無下に扱うことなんて僕にはできない。
何せ、想い人にあげるのであれば尚更だ。
僕にはそんな相手はまだいないが、こちらをじっと見ている違うクラスの女子はどうだろうか。
圧倒的存在感と不気味さを醸し出しながら、ほぼ赤の他人である僕が下校するのを待ち構えている。
何の用があるのか、こちらは見当がつかない。
彼女の身長が高いせいか、旗から見たら蛇に睨まれた蛙そのものだろう。
先生の話が終わり、みんな一斉に下校を始める。
教室には二つ扉があるが、例の彼女によって皆は遠い方の扉から教室を出ていく。
下校するだけだというのに視線が痛い。
何かがあったとして、僕にしかできない相談なのだろうか。
(だとしても、先生に頼めよ先生に……)
しかし、あの件から僕は、もし関わるようなことがあれば無視しないように決めていた。
人の外見、噂だけで邪険にすることは、自分の嫌がることをしていることと同義だと、あの時に気づかされたから。
「……久しぶり」
「もうちょっと、来るのせめて待てなかったのか?」
「そ、の……。た、助けてほしい、の……」
前髪で隠れた顔から、涙がまた一つ頬を伝い、滴り落ちる。
僕はそっと、持っていたポケットティッシュを渡す。
「あ、ありが、と」
お礼を言うと、彼女は涙を拭き本題に入る。
「じ、実は……。す、好きな人に、ちょちょちょチョコを……。だけど、つつ作り方……。ひ、秘密……」
「ああ~、なんとなく分かった」
要するに、好きな人にチョコを渡したいけど、作り方が分からないから教えてほしい。もしくは、一緒に作ってくれということだろう。
「作る方法だけなら、家庭科の先生にでも聞けばよかったんじゃないか?」
「……後ろから近づいて話そうとしたら、なぜか倒れた」
「そうはならないだろ……」
「で、青木……さんが料理が趣味って、他の人が言ってるの聞いて」
「白羽の矢が立ったというわけか」
どうやらクラスメイトの口は軽いらしい。
確かにホワイトデーに、ホワイトチョコを使って毎回お返しを作るくらいには得意だ。
しかし、少し気に入らない部分がある。
「分かった。チョコ作りは好きだし、断る理由もない。けど、頼むならせめて、顔は見えた方がいい」
人と接することは人間であれば避けることはできない。
顔が見えるのと見えないのでは、表情が見えないのは見たまんまだが、誠意も伝わらない。
これは、彼女のためを思ってのことだった。
もちろん、余計なお世話と切り捨てられればそれまでだが、ずっとそのままってわけにはいかないだろう。
「……分かった」
こうして、僕は自分の家に帰ることなく、そのまま花園茜の家へとバレンタインチョコを作るために向かうのだった。
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