3人が本棚に入れています
本棚に追加
「見舞いに来たで」
「す、す、すいません。わざわざ、兄さん、ありがとうございます」
「気にすんなって、近くへ用事があったからな」
兄さんがポケットからダースのミルクを二箱出して渡してくれた。
「鈍臭いな、階段からすべって足折ったんやて」
「面目ないです」
「はるちゃんのことでも考えてたんか?」
図星だった。
「いや、まあ、その話は、もう、終わったことなんで…」
「ええ子やろ、うちでもよう頑張ってくれてるし。なんせ気立がええしな」
「そうですね、夢のような1日でした…」
無事楽しんでくれたのだろうかと、時々俺に向けられた笑顔を思い出して、ドキドキしてる自分を噛みしめていた。
「はるちゃんさん、好きな人がいてるんでしょ。僕なんか出る幕ないじゃないですか」
「そうやねん。でもその好きな子が家庭の事情で忙しいらしくて、連絡とれへんねん。ラインも既読がつかへんってゆうてた」
「ほんまに家庭の事情なんですか?ライン読むぐらいできるでしょう?」
「さあ、何がホンマで何が嘘か俺は関係ないと思うけどな」
大将が折れた足に巻いてあるギブスを拳で、コツコツとたたく。
「おまえの気持ちはどうやねん、はるちゃんに夢中なんやろ」
「そうですけど、はるちゃんさんは興味ないと、一回きりだと、あの時も何度も謝られて、俺は心折れてたんですけど、それを見せたら彼女が苦しむと思って、頑張って笑顔を絶やさないように…」
大将がマジックで、ギブスに大きくバカって書いた。
「不器用やな。お前は。まあだから、俺はお前のこと信用してるし、好きなんやけど、そういう高倉健さんとか寅さんみたいな、男気はもう流行らんのやで」
「じゃあどうしたらいいんですか」
俺はベッドから体起こして、兄さんに向きなおった。
「連絡先は交換したんか?」
「そんな雰囲気じゃなかったです…」
「しょうがねえなあ…もう…」
大将がギブスのバカの隣に、さらに大きな字でアホと書いた。
最初のコメントを投稿しよう!