大将とアズマくんの内緒の話

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「見舞いに来たで」 「す、す、すいません。わざわざ、兄さん、ありがとうございます」 「気にすんなって、近くへ用事があったからな」  兄さんがポケットからダースのミルクを二箱出して渡してくれた。 「鈍臭いな、階段からすべって足折ったんやて」 「面目ないです」 「はるちゃんのことでも考えてたんか?」  図星だった。 「いや、まあ、その話は、もう、終わったことなんで…」 「ええ子やろ、うちでもよう頑張ってくれてるし。なんせ気立がええしな」 「そうですね、夢のような1日でした…」  無事楽しんでくれたのだろうかと、時々俺に向けられた笑顔を思い出して、ドキドキしてる自分を噛みしめていた。 「はるちゃんさん、好きな人がいてるんでしょ。僕なんか出る幕ないじゃないですか」 「そうやねん。でもその好きな子が家庭の事情で忙しいらしくて、連絡とれへんねん。ラインも既読がつかへんってゆうてた」 「ほんまに家庭の事情なんですか?ライン読むぐらいできるでしょう?」 「さあ、何がホンマで何が嘘か俺は関係ないと思うけどな」  大将が折れた足に巻いてあるギブスを拳で、コツコツとたたく。 「おまえの気持ちはどうやねん、はるちゃんに夢中なんやろ」 「そうですけど、はるちゃんさんは興味ないと、一回きりだと、あの時も何度も謝られて、俺は心折れてたんですけど、それを見せたら彼女が苦しむと思って、頑張って笑顔を絶やさないように…」  大将がマジックで、ギブスに大きくバカって書いた。 「不器用やな。お前は。まあだから、俺はお前のこと信用してるし、好きなんやけど、そういう高倉健さんとか寅さんみたいな、男気はもう流行らんのやで」 「じゃあどうしたらいいんですか」  俺はベッドから体起こして、兄さんに向きなおった。 「連絡先は交換したんか?」 「そんな雰囲気じゃなかったです…」 「しょうがねえなあ…もう…」  大将がギブスのバカの隣に、さらに大きな字でアホと書いた。
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