1章 傷物令嬢になる

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魔法学校にて復活しようとする世界を混沌へ陥れる魔王を、愛と魔法の力で打ち砕く!という王道ストーリーだ。 この世界では、血に魔力が宿る。そのため人間の誰もが、食べて寝るくらい自然に何かしらの魔法が使える。 だが一般市民が扱えるのは五大属性「土」「水」「火」「風」「闇」の中のどれか一種のみ。 貴族階級の血となれば五大属性の全ての魔法が使える。ゆえに貴族は生まれながら地位がある金持ちでありながら、魔法のエリートでもある。 そのため生粋の公爵令嬢であるアンは、非常に強い魔法を使える有能な人物だ。 公爵令嬢の地位、そしてややキツい印象であるが高貴な美貌をも兼ね備えた悪役令嬢アンは、王太子に歪んだ愛さえもたなければ将来安泰が約束されている。当然、死にさえしなければ推しも眺めたい放題な生まれガチャ勝ち組だ。 アンは鏡の中の美少女に手を伸ばして、鏡の自分の頬を撫でた。アンの人生に邪魔なのは王太子との婚約、ただ一つだ。他は全て揃っていると言っていい。 (もし悪役令嬢になったとしたら?私の答えはもう出てる) 前世にて乙女ゲーしかり、異世界転生、悪役令嬢小説も貪りつくしていたアンである。すでに最適解を得ていた。 (運命の分岐路は婚約破棄が待ってる断罪ルートに乗せられるもっともっと前。最初から婚約なんてしなければいい!それがどう考えても一番安全!) 鏡に映る猫目で強気顔の美少女の心の中で、三十路のオタクは叫んだ。 (今ドキの悪役令嬢は、婚約破棄どころか、婚約しません!) アンのやることはすでに決まっていた。だが、問題はそう。 (私にそれをやる「度胸」があるかどうか……!) 「お嬢様、ミカエル殿下がお着きです」 幼い公爵令嬢の過度に華美でキラキラした薔薇色の部屋に侍女が入室した。 鏡の中の美少女アンは、侍女に向かって頷く。強気でキツい印象を与える顔立ちだが、薔薇色猫目のアンは特別に可愛い。 アンは気持ちを落ち着けるためにふぅと息をついてから侍女に伝えた。アンの口からは、アン自身が思ったよりもずっと幼い声が出た。顔も声もなんて愛らしい。 「わかったわ。あの、ミカエル殿下に私の部屋で会えるかしら?」 「伺ってみます」
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