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殺人事件の話題が職場で跳ね上がっていた頃から一カ月ほどが経ち、季節も秋の深まりを見せるようになった。段々と日が詰まって来て、5時を過ぎると窓の外はすっかり暗くなっている。夜が近づくにつれホテルは客の出入りが激しくなり、当然私たちの仕事も忙しさを増していった。
その日、私は初めての人と会った。
一つ上のフロアに移動し、指示された部屋のドアを開ける。ドアを開けると同時に部屋の電気が着くのだが、パッとついた灯りの下でゴミを片付けている人がいたのでびっくりして、えっ!と思わず声を上げた。
まだだれも清掃に取りかかっていないはずの部屋なのに、すでに人がいる。それも見たことのない女性が。
誰だろう?新しく入った人なのかな、としばし固まっていると、
「ゴミは今片付けてる。あなたはリネンはがしてちょうだい」
私にてきぱきと仕事を振りながら、自身も動きを止めることなく床にも散らばったゴミを素早い動作で拾っている。
「あの、新しく入った方ですか?」
相手の方がどう見ても私より年上だが、だからといって何の挨拶もしないで一つ部屋で一緒に作業をするなんて少し気持ちが悪い。聞いたことは、なんらおかしくない、と私は彼女の返事を待った。
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