心残りの訳

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・・私ね、このホテル街の一番端にあるマーガレットってホテルで働いていたの、5年前まで。その時まだ50だったのよ、なのに仕事中に倒れちゃってさ、そのまま帰らぬ人になっちゃったの。医者が家族に説明しているのを聞いてたら原因は脳だって。あれって前触れなく急にくるでしょ、いきなり死んじゃうんだもの、この世に未練ばっかりでさ。気づいたら地縛霊みたいになってたの・・  そこまで聞いて鍋島さんが、納得の肯きを繰り返した。そういうこと、と。 「事件で亡くなったわけじゃないんですものね。このホテル街の他社にまで知られなくてもおかしくないですよね。そうだったんですか・・お気の毒に」  言われて相良さんは、ありがと、と微笑んだ。死者が死を悼まれて明るく礼を言う。なんていう光景なんだ、と拍子抜けするような気分になった。 ・・で、続きね。倒れたのが清掃途中だったから、なんか気になって、その気がかりが原因で居座り続けてるんだって悟ったから、だったら気が済むまでやってやろうと思ってね。だけど自分が働いていたホテルに出るわけにはいかないでしょ?顔見りゃ私だってわかっちゃうから。だからこのホテル街の他所のホテルに見回りとして出向いていたわけ。どこのホテルにもいるのよね、一人くらいは、見える人が。だから見つかって、話が大きくなる前に次へと移動していたわけ。で、ここは3件目・・
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