心残りの訳

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 確かに、あの夢であろう出来事がきっかけとなって私の生活は変わった。外に出て、他人との関わりを覚えながらここまでやってきた。この先もきっと、何とかやっていけそうな気がする。  霊の導き・・  もしかしたらあの時の霊が相良さんという霊へとバトンを繋いで、そして私を導いてくれたのかもしれない。私は、霊によって殻を破ることができた、と言ってもおかしくないかもしれない。 「あの・・もしかしたら私は・・違う世界の人に道を切り開いてもらったんでしょうか」  聞いて相良さんも鍋島さんも、なるほど、という表情を見せた。 「うまい事言うわね。でも本当にそうかもしれないわ。あなたの後ろにいるというヒト、そして相良さんが新しい楠さんを見つけてくれたのかもしれないわよ」  私を見つめた鍋島さんの瞳は、柔らかな表情のまま相良さんへと向けられた。鍋島さんと目を合わせた相良さんも、穏やかな、まるで生きているようなつややかな笑顔を見せてくれた。 「私、自分のペースで頑張ります。無理しないで、自分らしくがんばります。だから相良さんももうゆっくり休んでください。ちゃんと窓枠のホコリも見逃さないように掃除しますから、心置きなく、休んでください」  いつまでも相良さんが、いや霊がこの世にとどまることはよくない。自身がいるべき場所にいるのがもっとも望ましいことだから。  鍋島さんも私に続いて相良さんに言葉を贈る。もうゆっくりしてください、と。  大きく肯いた相良さんだったが、最後にもう一つ仕事をするわ、と言う。
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