心残りの訳

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 相良さんの最後の気がかりがなんだったのか、わかったのは二日後だった。  その日の朝、笠原マネージャーが設備室の奥で倒れて、救急搬送された。原因は脳梗塞だった。人目につきにくい場所だったので、発見が遅れれば命の危険もあったかもしれないと聞いた。だから、早くに救急車が来たことで大事にいたらず、その場にいたスタッフたちはみな安堵の息を漏らしたという。だけど・・・  笠原マネージャーが倒れたのを、誰も気づかなかった。ホテルの前に救急車が止まったのをみたフロント担当者は、何事かと救急隊員の人に聞いたらしい。 「こちらから通報があってきたんですが。60代男性が倒れて、多分原因が頭ではないかという細かな事も聞いていたので。設備室で倒れたとのことですが案内してください」  訳も分からず、それでも救急隊員の人の気迫に押されるようにして設備室に行くと、笠原マネージャーが倒れていたという。  救急車に一緒に乗って付き添って病院に行ったフロント担当者はホテルに戻ってから、笠原マネージャーの無事の報告をした後、早朝のスタッフたちに聞いた。 誰が救急車を呼んだのか、と。  その時ホテルにいたスタッフはフロントも含めて5人。でも誰も119番に電話した者はいないという。いったい誰が救急車を呼んだのだろう・・・?  出勤してその話を聞いた時、これか!と私は心の中で叫んだ。 相良さんの最後の気がかりはこれだ。救急車を呼んだのもきっと・・・ end
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