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「だけどどうしてこう事件の舞台になることが多いのかしらね」
「もしかして、昨夜のニュースの話?」
休憩室が設備修理中で使えないので、更衣室の隅っこにパイプ椅子を持っていき菓子パンをひとつ食べながら短い休憩をとる。その横で5時までの勤務を終えた黒木さんと川島さんが、休憩中に悪いわねとわざわざ断りをいれて帰り支度を始めた。例の話題にふれながら。
黒木さんと川島さんは、こんな陰気な私にもいつも丁寧な気遣いを見せてくれる。二人は高校の同級生だそうで、もう三十年来の付き合いなのよと教えてくれた。この時ばかりはその優しい雰囲気に私も言葉を返した。いいですね、と。
その、私がほんの少し心を許せそうなこの二人の会話に、パンをかじりながら耳をかたむけた。
「出会い系とかじゃなくてさ、そもそも交際していたっていうんでしょ?別れ話かなんか知らないけどさ、なにも殺さなくったっていいじゃないねえ、それもラブホでさぁ」
「事件起こしやすいのかしら」
「なにラブホで?そんなのどこだって同じじゃない?自宅だって普通のホテルだって、犯行後に逃げて捕まる、これ普通の流れじゃない?どうせ捕まるんだったらさあ、他人に迷惑にならないとこでやってほしいわよ」
「まあね、せめて私たちに死体発見させるのは止めてよねってことだわね、って、楠さんごめんね、食事中にこんな話して」
最後の咀嚼し終えたところだったので、声を出せずに大丈夫だと首を振って見せた。
そしてパンを完全に飲み込んでから、私はあの、と声を出した。
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