「重い」

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「橋本さん。ここ空いてるけど、座る?」 「え、蒼悟くんなんでいんの。でも今から使うんでしょ」 「充分くつろいだからね」 「嘘。ここ開くの七時じゃない」 「平日は六時からなんだって、びっくりだよねぇ」  振り返ってドアを見る。確かに『月―金 AM6:00~PM23:00』の文字があった。朝五時台から出かけていたのはそのせいか。美紅は察する。そして蒼悟の席を見て息を吐く。 「そんなカッコになっても朝から優雅に読書なんて。変わんないね、あなたは」  そんな恰好。髪は脱色してきれいな金色に染められており、耳にはスタッドピアスが輝いている。服装はラフで、チャコールグレーの半袖シャツに、薄い青色をした太めのデニムだ。シャツから覗く腕は白く、美紅は日焼けを気にする自分が馬鹿らしくなった。 「俺はずっと変わんないよ」 「はいはい。じゃあ、相席させて?」 「……うん! 喜んで」  美紅はコーヒーを注文するためにカウンターへ向かった。それを見送る蒼悟は目を輝かせ、今にも鼻歌を歌いだしそうだった。 「失礼しまーす」  美紅は購入したコーヒーを蒼悟のテーブルの上に置く。 「あれ、これ俺にくれるの?」 「まあ、相席させてもらうし」  少し気まずそうに美紅は答える。トレイには二つのコーヒーが載せられていた。 「橋本さんは、カフェモカ?」  確認もせず、蒼悟はブラックコーヒーを手に取る。確認もされず、自分のコーヒーが何かまで当てられた美紅は眉間に皺を寄せる。「なんでわかるのよ」と言いたかった美紅だが、ブラックコーヒーが未だに飲めないことや、蒼悟の好みをわかった上でこの注文をした自分への悔しさから、ぐっと我慢した。 「橋本さんさ、チョコ好きだよねー」 「やめて」 「えっと」 「呼び方」 「うん。ありがと、美紅ちゃん」  蒼悟は中学卒業以前の呼び方で美紅の名前を呼ぶ。なぜか感謝の言葉を口にされ、美紅はむずがゆかった。
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