3人が本棚に入れています
本棚に追加
「橋本さん。ここ空いてるけど、座る?」
「え、蒼悟くんなんでいんの。でも今から使うんでしょ」
「充分くつろいだからね」
「嘘。ここ開くの七時じゃない」
「平日は六時からなんだって、びっくりだよねぇ」
振り返ってドアを見る。確かに『月―金 AM6:00~PM23:00』の文字があった。朝五時台から出かけていたのはそのせいか。美紅は察する。そして蒼悟の席を見て息を吐く。
「そんなカッコになっても朝から優雅に読書なんて。変わんないね、あなたは」
そんな恰好。髪は脱色してきれいな金色に染められており、耳にはスタッドピアスが輝いている。服装はラフで、チャコールグレーの半袖シャツに、薄い青色をした太めのデニムだ。シャツから覗く腕は白く、美紅は日焼けを気にする自分が馬鹿らしくなった。
「俺はずっと変わんないよ」
「はいはい。じゃあ、相席させて?」
「……うん! 喜んで」
美紅はコーヒーを注文するためにカウンターへ向かった。それを見送る蒼悟は目を輝かせ、今にも鼻歌を歌いだしそうだった。
「失礼しまーす」
美紅は購入したコーヒーを蒼悟のテーブルの上に置く。
「あれ、これ俺にくれるの?」
「まあ、相席させてもらうし」
少し気まずそうに美紅は答える。トレイには二つのコーヒーが載せられていた。
「橋本さんは、カフェモカ?」
確認もせず、蒼悟はブラックコーヒーを手に取る。確認もされず、自分のコーヒーが何かまで当てられた美紅は眉間に皺を寄せる。「なんでわかるのよ」と言いたかった美紅だが、ブラックコーヒーが未だに飲めないことや、蒼悟の好みをわかった上でこの注文をした自分への悔しさから、ぐっと我慢した。
「橋本さんさ、チョコ好きだよねー」
「やめて」
「えっと」
「呼び方」
「うん。ありがと、美紅ちゃん」
蒼悟は中学卒業以前の呼び方で美紅の名前を呼ぶ。なぜか感謝の言葉を口にされ、美紅はむずがゆかった。
最初のコメントを投稿しよう!