夢の中の女性

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私は、ユリが悲しみに、寂しさに染まる表情をしているのをみたことがない。そもそもユリは人ではない。私の夢が作り出した、私の単なる想像上の人物に過ぎないのだ。「でもね、、、」私は口を開く。途端に息ができない程に風が吹き暴れ、何千万もの花びらを空へと向かって投げつける。酔いしれるほどに鮮やかなそれが鼻や頬ををかすめる。視界が赤、黄、緑色に変化していく。木の枝がばきっと折れる音がして、全身が狂暴に殴りつけられる。息ができない。かすれたような、それでも力強い美しい声がする。もう既に遠い。「ティナ、、!どういうこと、、、!?」あなた何したの!? ごめんね、ユリ、もう耐えられなかったんだ。そう口にすることも叶わず遠ざかる意識に自然と涙がこぼれる。遠くでユリの声が聞こえた。 午前三時、アメリカ、ニューヨーク、くたびれたアパートの一室でティナは息を引き取った死因は薬の過剰摂取。しかしその顔はいまにもその瞳をみせて微笑みそうなほどに穏やかなものであった。 そろそろ寝なきゃなのにな、、そうこぼしつつアイは時計を見る。もう夜中の三時である。目をつぶれば色々な不安が眼前にひろがって眠れないのに。しかし明日も仕事がある。アイはぐったりと目を閉じる。その瞬間、全身を別世界に引き寄せられる。ぶわっとひろがるやさしい香りにはっと瞳をあけると、目の前で何万もの花が咲き誇っていた。「いらっしゃい、待ってたよ。」鳥の羽のように柔らかな声の方へと顔を向ける。そこにはさらさらとした茶色の髪を風になびかせてゆったりと幸せそうに微笑む女性が座っていた。これで良かったんだ、どこかでそんな声がしたような気がした。
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